注⑴高尾曜「評伝 柴田是真─その生涯と芸術─」『ZESHIN』根津美術館,2012年⑵横溝廣子「柴田是真の下絵・写生帖、そして帝室技芸員関係書類が示すもの」『三井美術文化に築地八百善で行われた展覧会の『柴田是真五十年記念追善會遺作目録』に掲載されている出品者をみると、明治時代後半から昭和初期に活躍した財界のコレクターや、美術商らの名前が増え、作品が移動したことを物語っている(注12)。このことから、是真の生前において、彼の作品を愛好した顧客は幕末・明治を通じて支援を続けていたことがうかがわれ、是真を取り巻く制作環境が、時代の変化による影響をさほど受けず、かえって古くからの交流によって晩年に大きな仕事をする機会に恵まれていったのである。本研究では、是真と顧客との関係によって、作品にどのような特徴が生まれたのか、個々の作品について掘り下げて考察することができなかった。是真の顧客の注文に対して予想を超える着想と技術で応える制作態度は勤勉で、きわめて職人的な気質によるものといえる。それが結果的に、分業化されていた蒔絵の制作過程を、下絵から仕上げまで一貫して行う、近代的な工芸家の制作態度の嚆矢となり、独自の作品を作りあげることとなった。今後、是真の顧客研究はさらに詳細になるであろう。他の作家では、資料不足によって知ることが難しい漆工における顧客が作品に与える影響関係について、考える手掛りとしたい。史論集』四号,三井記念美術館,2011年⑶前掲注⑴⑷柴田令哉「先考柴田是真」『書画骨董雑誌』第五十一号,書画骨董雑誌社,1912年⑸前掲注⑷⑹前掲注⑷⑺細田安兵衛「是真と榮太樓 江戸を支えた旦那衆」『別冊太陽日本のこころ一六三 柴田是真幕末・明治に咲いた漆芸の超絶技巧』平凡社,2009〜2010年⑻前掲注⑴⑼福井尚寿「総説」『古川松根─人と作品─』鍋島報效会,1988年⑽図録『佐賀の蒔絵師 芦刈梅吉作品集』鍋島報效会,2010年⑾『絵画蒔絵展覧会出品目録 第壹號』松平忠兵衛,1889年⑿『柴田是真五十年記念追善會遺作目録』梅澤隆眞,1940年― 402 ―
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