鹿島美術研究 年報第30号別冊(2013)
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伝は伝えている。場面は死の床で半身を起こしたドルシアナを描く。左のヨハネの頭部は15世紀。⑺奇跡を目のあたりにして驚く人々〔図4〕 1人の若者が群集の視線を隣りのドルシアナの蘇生場面へと導いている。群衆は着衣の色や身振りで変化がつけられている。⑻哲学者クラトンの教えにより宝石を砕く2人の若者〔図10〕 白いマントの哲学者クラトンが右に座り現世の富の虚しさを弟子に教えている。2人の弟子は台上の赤と緑の物体を金槌で叩いて砕いている。ヨハネはその場に居合わせ、こうした行いは真の解放ではなく高慢さ故の自己満足に過ぎないと説く。⑼クラトンの前で砕かれた宝石を元の状態に戻すヨハネ〔図10〕 宝石を砕くよりそれを売ってお金に変え、貧者に施しをするのが神の教えに適うと、ヨハネは説く。ヨハネの神が正しいなら砕かれた宝石を元通りにして欲しいとクラトンが言うと、ヨハネは神に祈り宝石は元通りになった。⑽薪と貝殻を黄金と宝石に変えるヨハネ〔図10〕 左にヨハネが立ち、右に2人の若者が薪の束と貝殻をもってヨハネの方を振りかえる。2人の若者がヨハネの教えに共鳴し財産を投げ打って貧民に施しをした。一文無しになった若者達はかつての召使が豪奢な着物を身につけているのを見て後悔する。「もとの財宝が惜しいなら、直ぐに薪と貝殻を拾って来なさい」と告げ、彼らが持参すると、ヨハネは薪を黄金に変え貝殻を宝石に変えた。⑾ヨハネが変えた黄金と宝石を両替商が吟味し、その品質を保証する〔図10〕これほど見事な黄金や宝石はこれまで見たことがない、と両替商からお墨付きをもらう。右の若者は薪束から1本を取り出して両替商に渡す。机上には十字印のついた貨幣が置かれている。両替商の顔は15世紀。次いで場面は、中軸の四葉形へと続き、下から順に上へ読みあげる。⑿スタクテの死 結婚して間もないスタクテが死んで魂が口から出てゆく。悪魔が魂を奪おうと待ち構えている。赤子の形の魂は13世紀で、悪魔は15世紀の修復。⒀ダイアナ神殿の大祭司アリストデムスの前に立つヨハネ 大祭司アリストデムスがヨハネの信仰を試そうと尋問する。アリトデムスの頭部や椅子は13世紀だが、銘文S(an)C(tus)IOHANNESとヨハネの顔は15世紀。⒁毒杯を仰ぐヨハネ アリストデムスの前で毒杯をあおぐヨハネ。既に毒を飲んだ2人の死者と右隅では召使が毒物を調合する。毒蛇が3匹バケツから顔を― 460 ―

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