鹿島美術研究 年報第30号別冊(2013)
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・ 第4層 ⑸王の前で毒杯をあおぐヨハネ/⑹死者の蘇生/⑺王が役人に命じて・ 第5層 ⑼パトモス島への旅立ち/⑽黙示録の執筆/⑾ヨハネの死を見守る弟b)相違点  「ドルシアナの蘇生」はシャルトルにあるが、トゥールには無い。反対に「油刑」はシャルトルに無く、トゥールにある。「ミサ」の場面はトゥールで重視され、シャルトルでは「薪や貝殻を黄金と宝石に代える」奇跡が4区画も占めている。トゥールとシャルトルの重点の置き方に明らかな相違が認められることが興味深い点である。注⑴高野禎子『カタログ《聖ヨハネ伝の窓》』(私家版)2013年5月;Id., 「シャルトル大聖堂のステンドグラス《Baie48:聖ヨハネ伝のステンドグラス》─その3─」『清泉女子大学紀要』第58号、2010年、pp. 79−107にもとづき、カラー図版を交えて再構成したもの。⑵特に興味深いのは13世紀の英国黙示録写本との関連性である。黙示録写本の現存最古の例に半世紀以上先んじて登場するステンドグラスの「聖ヨハネ伝」は注目に値する。・ 第6層 ⒀栄光の死/⒁ヨハネの死を見守る弟子達/⒂杖をつく障碍者/⒃ヨ王〔図9左下〕/⑷王と毒杯を飲む人物、死せる人〔図9右下〕油刑の準備をさせる〔図9左上〕/⑻油刑〔図9右上〕子達/⑿空の墓─魂の昇天ハネのミサ─助祭を従え聖杯のある祭壇を前にミサを行う結びに代えて ─三つの窓のまとめ─ 上記の窓は13世紀の初頭、中頃、後期の各時代に対応している。今後の《聖ヨハネ伝の窓》の研究にとって重要な意味を担うと思われる窓である。三者の主題の共通点と相違点を見ると、次のような特徴が浮かび上がる。a)共通点  「毒杯の奇跡」、「薪と宝石の奇跡」「パトモス島への旅立ち、黙示録執筆」、「栄光の死」が共通している。様式的な類似性は認められないが、地域、年代の変化が各々あとづけられる。特に⑤と⑥の窓は、同じ地域に発達した図像群であるにもかかわらず、恐らくその背後にあった制作の意図が大きく変化したことをうかがわせて興味深い。以上、『カタログ』の諸項目の精査を通して、各地の聖堂における聖ヨハネの位置づけを多角的に考察してゆくことができる。基礎資料としての『カタログ』をさらに充実させてゆくことを期待しつつ、本報告に代えたい。― 463 ―

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