鹿島美術研究 年報第30号別冊(2013)
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を巡って駆け引きをするなど、コレクターたちのありのままの姿が『回想』には如実に描かれているのである。2.1909〜1914年の連続浮世絵展ジャポニスムブームも過ぎ去った20世紀初頭に開かれたこの連続浮世絵展について、これまで論じられることはなかったが、およそ半世紀に亘ってフランスで収集されてきた浮世絵コレクションの全貌を確認できる展覧会として、より深く検討すべきであると考える。本展覧会の出品作は、ケクランはもちろん、ヴェヴェールVeverやビングBing、ルアールRouart、カモンド伯爵Comte de Camondo、ドゥセDoucetなど名立たるコレクターたちの作品が集められたもので、誰もこの展覧会への貸出を断らなかったとケクランは『回想』(p. 61)で記しているが、個人コレクターの他に、ルーヴル美術館および装飾美術館所蔵の浮世絵も出品されていた。19世紀末から、浮世絵などの日本美術がフランスの美術館に収蔵され始めていたが、こうした活動に携わったケクランの美術行政家としての側面を最後に確認したい。3.フランス美術行政との関わりこの時代、コレクターたちの美術館への寄贈、遺贈が盛んになったが、その背景にはケクランの活動も深く関わっていた。ケクラン自身のルーヴルへの最初の寄贈は1890年からジャポニザンの仲間入りを果たしたケクランは、その20年後、装飾美術館Musée des arts décoratifsで6回に亘って(1909〜1914年)開かれた連続浮世絵展の企画に携わった。彼が序文を執筆したカタログ(注10)は、Ateliers photo-mécaniques D.-A. Longuetから限定100〜130部出版され、精巧な図版を豊富に掲載した(第2回1910年からは別刷りの色図版も挿入された)大判の豪華なカタログである。今回、6冊すべてが揃って所蔵されているフランス国立図書館(Bibliothèque nationale de France)、装飾美術館附属図書館(Bibliothèque du musée des Arts décoratifs)、東京芸術大学附属図書館の3館で、本カタログを閲覧したところ、すべてのカタログにケクランの手書きによるサイン、シリアルナンバーが記載されていた。この連続浮世絵展、およびそのカタログ内容は〔表1〕にまとめたとおりである。各回300点を越える作品が出品された大規模な展覧会で、カタログ掲載作品も出品作全体の三分の一を越えるなど、カタログも大変充実していた。例えば、北斎の「富嶽三十六景」は、追加の10枚も含めて、計46枚がすべて揃ってフランスで展示された初めての機会であり、カタログにも46枚すべてが掲載されるという具合だった。― 485 ―

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