鹿島美術研究 年報第30号別冊(2013)
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に赤褐色の線を用いることもダンダン・ウィリクで行われ、これは古く4世紀頃の作品とされるミーランの壁画で既に採用されている(注4)。またダンダン・ウィリクよりも南側に位置し、タマゴゥにより近い古ドモコの諸遺跡(カダリク、バラワステ、ファルハド・ベグ・ヤイラキ)の作品も赤褐色の緊勁な線を用いるが、古ドモコ作品は線描だけでなく、顔、身体の特色いずれにおいても、より1号仏寺作品に似る。1号仏寺の菩薩において行われた、目を細く開け、瞼を厚くつくり眼球の膨らみを強調する表現も古ドモコで見られるのである〔図6〕。一方、1号仏寺がどのような世界観を表すのかは判然としないが、個々の図像に関して、毘沙門天や斑文様の馬はダンダン・ウィリク等からも発見されている(注5)。斑文様の馬には、貴人が乗り、杯を掲げて祝福を表し、そこに向かって黒い鳥が飛来してくる様子を描くことが一般的であり、1号仏寺でも当初そのように描写していたのであろうと考えられる。ダンダン・ウィリクや古ドモコでは、毘沙門天の他にヒンドゥー教系の図像としてシヴァ神やガネーシャが発見されている〔図7〕。トプルクドンの2号、3号仏寺は、1号仏寺の西側70メートル程の地に隣接して発見され、東向きに建っていた。1号仏寺とは異なり、複数の部屋を備え、2号仏寺の仏堂は西域南道に一般的な「回」字の形をしていた 。2号仏寺と3号仏寺がどのような関係にあったのかは不明である。両寺の壁画は断片として保存されているため、1号仏寺のように仏堂全体を通して当初の様子を再現することはできない。描線は起稿線が赤褐色で、その細さにおいて1号仏寺と共通するが、白地に像を描くことが行われる。2号仏寺の如来の顔貌表現は、1号仏寺のそれに比してより柔和な印象を与えるものであるが、大きくは異ならない。また、菩薩像も1号仏寺のそれと近似する。斑文様の馬も登場し、ここでは騎馬人物と鳥の姿がしっかりと認められ、ダンダン・ウィリク他の作品と変わりない〔図8〕。これは回廊にあったものであるとされる(注7)。馬の上には千仏が描かれるが、こうした騎馬図と千仏を組み合わせることはダンダン・ウィリクでも行われ(注8)、また仏において、顔が丸く、短く、眼に各要素が集約するというダンダン・ウィリク仏と類似する像が多く認められることは注目に値する。3号仏寺の壁画には尊格のはっきりとしない像が多く見出される。断片からは、4体の男女像が光背を負って、向かって右側に飛翔する様子を示すものがあることが分かる(注9)。男女像共に宝冠、耳環、天衣によって飾り、また眼の縁を青く塗る。土着の神像であろうか。顔のつくりは1号仏寺の毘沙門天像に近く、男像は毘沙門天像同様に犬歯をみせる。こういった土着神を思わせる像が描かれる反面で、3号寺壁― 515 ―

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