鹿島美術研究 年報第30号別冊(2013)
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に列弁文をめぐらす。髻頂に仏面、髻側面に三面、地髪部に七面の変化面を配す。白毫相をあらわす。左手は前方に屈臂して水瓶を執り、右手は肘を軽く曲げて体側に垂下させ、五指をのばして掌を正面に向ける。臂釧・腕釧をつける。臂釧は紐二条の下に列弁文をめぐらせ、上膊側面中央に、上下に半裁の花文ではさんだ菊座をあらわす。腕釧は紐二条に列弁文をめぐらす。条帛・裙・腰布・帯状布を着け、天衣を懸ける。条帛は、正面および背面の左方で、それぞれ布端を垂らす。裙は正面で右前に打ち合わせ、上端を折返す。腰布は腰から膝辺までをおおい、右前に打ち合わせる。その上に幅の広い帯を巻き、正面中央でリボン状の結び目をつくって端を垂らす。裙の下方側面に瓔珞によるたくれをあらわす。天衣は両肩に懸かり、左右とも両肘内側に至る。右はそのまま内側に垂下し、左は肘で折り返り内側に垂下する。腰をわずかに右にひねり、両足先を開いて立つ。⑶ 品質・構造欅。一木造り。漆箔。頭頂地髪部より足oに至るまで、木心を中央にこめた一材より彫出する(材幅は42.3センチメートル)。内刳りはなし。髻部および頭上面は別材製。左腕は肘先、右手は手首で矧ぐ。天衣遊離部別材矧ぎ。両足先別材。足o下端を切り落とす。足o部と両足先の接合部は漆箔がほどこされておらず、年輪をうかがうことができる。なお胸部の中央上方に、正方形に区画された空間内に筒状の物体が納められている(X線透過撮影画像による)。⑷ 保存状態後補は、髻・頭上面・左右の天衣遊離部・銅製の冠繒および胸飾・表面の漆箔。なお台座は附属しない。等身大もの大きさの全身をほぼ一木で彫出し、内刳りをほどこさないなどきわめて古様なつくりをもつ像である。こうした構造・技法、および胸部の立体感に富んだ起伏には、平安時代にさかのぼるような一木彫像を想起させるところがある。一方で下半身は、膝や大腿部などの各部の位置がはっきりしないなど、胸部とは異なって立体の捉え方に不正確な部分が目につく。また形式的な観点からすれば、本像には平安時代にさかのぼりえない新しい要素を指摘することができる。たとえば、膝までを覆うような長い腰布の上に、さらに幅の― 549 ―

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