鹿島美術研究 年報第30号別冊(2013)
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2.2011年度助成研 究 者:東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程  安 永 麻里絵本研究は、ドイツ・ルール地方の工業都市ハーゲンに1902年に開館したフォルクヴァング美術館の展示形式について、非西欧美術コレクションの受容との関連に着眼し考察するものである。創設者カール・エルンスト・オストハウス(Karl Ernst Osthaus,1874−1921)は、新印象主義、ポスト印象主義を始めドイツ有数のモダン・アートのコレクターとして知られ、またアジア、アフリカ、オセアニアといった非西欧の造形物をも美的価値を有するものとして蒐集し、個性的なコレクションを築き上げた。特に、非西欧の造形物を民族学的資料として西欧美術の下層に分類するのではなく双方に相対的な美的価値を認め、それを併置的展示によって具現化した点が注目される。フォルクヴァング美術館が西欧近代の美術館展示史において重要な意義を持つ理由はここにあるが、なかでも歴史的指標として重要なのが、アフリカ彫刻とモダン・アートの併置的展示である(注1)。本稿では、この展示で西欧と非西欧を結びつける概念として導入された「心理的親縁性」の概念に焦点を当て考察したい。1.オストハウスとフォルクヴァング美術館に関する先行研究は多く発表されているが、非西欧美術の展示に着眼したものとしてはシュタムの研究がある(注2)。特に2010年のエッセン・フォルクヴァング美術館再開館記念論集に寄稿された「世界美術とモデルネ」では、オストハウスの1912年の展示こそ、「ネグロ」彫刻を美術館に展示した最初の例であるとする、アフリカ彫刻商ブリュメルの証言資料の発掘に成功している(注3)。この1912年の展示とは、同年8月に初めてブリュメルと接触したオストハウスが、新たに「原始民族美術(Kunstwerke der primitiver Völker)」部門を設置したときの展示を指すと推定される。『ツィツェローネ』誌10月23日号に掲載された、オストハウスの研究協力者クルト・フライヤーによるコレクション紹介文では、古美術部門の新収蔵品としてギリシャ美術やエジプト美術に加え、アフリカや中南米の新収蔵品が紹介されている。― 559 ―①フォルクヴァング美術館展示史研究─非西欧美術へのまなざしと「心理的親縁性」の概念をめぐって─

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