─同じく注目すべきは、陳列の基本方針である。玄関ホールを占めているミンネの若者の噴水のそばには、古典期の小工芸の陳列棚があり、トリューブナーがアンピール様式の上品なライティングデスクの上に掛けられ、ゴーギャンの絵画がインドの仏陀像の間に掛けられている。そうしてなお、すべてのものは調和し合っているのだ。というのも、これらすべての芸術において常に、その重要なものが互いに通じ合っているからである。─(下線部引用者)(注17)つまりゲオルゲ・ミンネやヴィルヘルム・トルーブナー、あるいはゴーギャンといったモダン・アートの作例を、作品と同時代の家具やあるいは非西欧の造形物などと組み合わせて展示する方法こそ、フォルクヴァング美術館の「陳列の基本方針」となったのである。では、このような併置的展示の発想を支える思想的枠組みは何か。フライヤーは、従来博物館で異なるカテゴリーに分類されていたもの同士を組み合わせてもなおそれらが調和する理由として、個々のオブジェクトに内在する本質的なものが互いに響き合っているからである、と説明している。ここでは具体的にその「重要なもの」が何を指すかは説明されていないが、「互いに通じ合っている」という箇所では本来血縁関係のつながりを意味するsich verwandtという動詞が用いられていることから、両者を結びつけるつながり、つまりフライヤーの言う「重要なもの」は個々の作品に内在的なものとして想起されていることを示唆している。さらに『ケルン新聞』1913年8月10日号に掲載されたオストハウスの妻ゲルトルードによる紹介記事では、併置的展示の実例とその着想が「心理的親縁性」という言葉で表現されている。─隣接する部屋では、心理的に親類であるものを統一しようとする意思が、時間、国、歴史を飛び越えた。韓国の神聖な石碑やラオスのブロンズ像の間にゴーギャンの絵が掛けられ、ミンネの彫刻がひとつ立っている。そして不思議なことに、これらの作品の生命は抑圧を受けることなく一体となっている。[…]最も新しい絵画や彫刻のグループ、つまりマティスとノルデに特に代表される表現主義の作品の横に、アフリカ文化の悪魔的な作品が置かれることは、いまや殆ど自明の理に思わる。何しろこれらの芸術家たちは皆、何らかの不思議な心理的親縁性のために、かの遠く薄暗き地から刺激と、時には表現手段さえも掴み取ったのだから。─(注18)(下線部引用者)― 563 ―
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