ここでは、フライヤーが言及していたミンネやゴーギャンの作品による併置的展示に加え、マティスやノルデの作品とアフリカ美術が並べて展示されていたことが示され、またそれらが互いに「抑圧を受けることなく一体となっている」のは、両者の間に「不思議な心理的親縁性」が内在しているからにほかならない、と説明されている(注19)〔図4、5〕。このような非西欧美術や中世ヨーロッパの家具あるいは美術工芸品など、ファイン・アートの範疇外に属すると見做されるものとモダン・アートを並べる併置的展示と、その理念的着想としての「心理的親縁性」は、フォルクヴァング美術館の「陳列の基本方針」として定着し、この美術館の個性的特徴として認知されるに至った。美術史家エミール・ヴァルドマンは、『芸術と芸術家』1914年2月号の記事で、フォルクヴァング美術館が「ロマネスクやゴシックの聖人像、イスラムのタイル、ペルシャ絨毯、エジプトの動物の像、(…)中国、日本の小工芸、仏教彫刻、ネグロ彫刻、トリューブナー、ベックリーンにフォイエルバッハ、コロー、マネ、ルノワール、セザンヌ、ファン・ゴッホ、ゴーギャンにマティス、ロダン、マイヨールにミンネ、ニンフェンブルグ磁器やフランスの扇子」といった多種多様なものを抱合しつつなお美しく洗練された展示空間を実現している理由を次のように説明している。─これら全ての物が(いくつかの絵は別として)遍く互いに内的に密接な関係にあり、歴史的・地理的な境界を越えてすべてひとつの強い様式的親縁性を持っており、すべてのものを収集した意思と情熱が、それはひとりの人物の記録でもあるのだが、芸術と文化に対して自ら強い親近感を持っているためである。─(注20)(下線部引用者)ヴァルドマンはここで、併置的展示の鍵となる概念である作品間の「内的に密接な関係」を時代・地域を越えた「様式的親縁性(Stilverwandtschaft)」と換言している。3.では、この「心理的親縁性」、つまり美術と非−美術の境界を越えて多様な造形物の間にオストハウスが見出した内的関連性という着想は、一体何に由来するのか。ヴァルドマンの論評では、それはいわばオストハウスのコレクターとしてのアイデンティティの表出として説明されている。一方、中世の工芸や部族芸術とモダン・アートの併置、というアイディアはただちに『青騎士年鑑』(1912年5月刊行)との関連を想― 564 ―
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