鹿島美術研究 年報第30号別冊(2013)
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注⑴ フォルクヴァング美術館の非西欧美術コレクションと展示形式の発展についての研究は最初拙論「カール・エルンスト・オストハウスとフォルクヴァング美術館─非西欧への眼差しと展示形式の変遷─」(修士学位論文、東京大学、2008年度)で取り組んだ。本稿では、後述の2010年のシュタムによる研究等を踏まえつつ、いまだ詳細な議論が深められていない「心理的親縁性」の鍵概念について考察する。ここでフライヤーは、個別作品研究に基づく帰納的方法からヴォリンガーの芸術心理学に向かうことの必要性を説いている。とりわけ、そのような帰納的探究は、同時代美術にヴォリンガーの理論を応用するために不可欠であると指摘している。とすれば、フライヤーが解説したフォルクヴァング美術館の併置的展示こそ、まさにそのような帰納的視点に基づく芸術心理学の試みであったといえるのではないか。つまり個々の作品を物質的に並べて展示することで、両者の「心理的親縁性」を具体的に感知しうるようにすることこそ、フォルクヴァング美術館の併置的展示の綱領だったと考えられる。結論1912年初秋に初めてフォルクヴァング美術館にもたらされた部族美術は、美術館における「原始民族美術」部門の新設のみならず、非西欧美術や中世美術とモダン・アートの併置という革新的展示の実現の契機となった。この併置的展示の背景には、非西欧美術とモダン・アートの間に内面的、精神的つながりを見出す「心理的親縁性」という概念があった。それは、ブリュッケや青騎士の画家たち同様ヴォリンガーの人間心理学的芸術論に共鳴したことの表れであるばかりでなく、それに対する美術館からの建設的応答だった。つまりフォルクヴァング美術館における併置的展示は、個々の作品それぞれの理解から出発してなお時代や文化圏のことなる両者の間につながりと共鳴を見出そうとする、いわばヴォリンガーの理論への帰納法的補遺の試みでもあったといえる。⑵ Rainer Stamm, “Exoten und Expressionisten. Das Folkwang Museum als ‘Mikrokosmos des Geistes der Erde’,” Westfalen Bd. 71(1994), pp. 251−8; idem., “Kein Museum, das dasteht und wartet. Der Hagener Folkwang−Impuls im Kontext der Sammlungs− und Vermittlungsgeschichte,” Beiträge zur Geschichte der Stadt Hagen 1746 / 1996, ed. by Peter Brandt and Beate Hobein, Essen, Klartext, 1996, pp. 238−251.⑶ Reiner Stamm, “Weltkunst und Moderne,” in ‘Das Schönste Museum der Welt’: Museum Folkwang bis ― 567 ―

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