鹿島美術研究 年報第30号別冊(2013)
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『カタログ・レゾネ』のことで締めくくられる。ール、ブーシェなど、18世紀フランス美術を代表する画家たちの大規模な回顧展を行い、今日の研究の礎を築いたほか、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールなどの17世紀の画家についても、入念な資料調査に基づく画期的な展覧会を開催した。とりわけプッサンは、1961年のルーアンでの『プッサンとその時代』展を皮切りに、氏が若い頃から強い関心を注いできた画家で、1994年のパリのグラン・パレでの大回顧展はその集大成となるものだった。現在はプッサンの全絵画作品の『カタログ・レゾネ』を準備している。すでに素描の『カタログ・レゾネ』は、ルイ=アントワーヌ・プラト氏と共著で1994年に2巻本として刊行されている。一方で、わが国でもプッサンの研究者の層は厚く、毎年多くの成果が発表されているほどである。こうしたことを考えあわせると、ローザンベール氏の講演は、日本のプッサン研究者に強い刺激を与えるとともに、広く西洋美術を学ぶ研究者や学生、さらにフランス文化や美術に関心を持つ一般の愛好家の関心にもこたえる貴重な機会になったと思われる。9月11日、午後2時から4時まで、恵比寿の日仏会館ホールで行われた講演には、およそ100名が集まる盛況で、日本のプッサン研究者も大学院生まで含めて多数が参加した。講演前にはプッサン研究者が、氏を囲んで昼食会を行った。講演は氏の半世紀に及ぶ学芸員・研究者としての活動と、プッサン研究の動向と重ねるような形で進められた。プッサン再発見の大きな契機となり、今日の研究の基礎を形作ったのは1960年にルーヴル美術館で行われた『プッサン展』と、その2年前にパリで開かれた「プッサン・シンポジウム」であった。展覧会のカタログを執筆したアンソニー・ブラントは、1966年にプッサンの絵画の『カタログ・レゾネ』と『プッサンの絵画』と題する研究書を刊行した。一方、シンポジウムの『報告書』は昨年に亡くなったジャック・チュイリエが中心になって、1960年に出版された。このふたつのプッサン研究の記念碑は、ローザンベール氏が研究者として活動を始めた時期のことで、氏の研究はそれらの批判的継承として進められていることが明らかにされる。プッサンの研究は、作品のアトリビューションの問題、制作年の問題などの初期の基礎的な問題から、プッサンの作品の愛好家・蒐集家、彼の庇護者、作品の図像解釈、あるいは図像や文学上の着想源など、多岐にわたってきた経緯が示され、日本の研究者の業績にも話が及んだ。講演は、ブラントの著作を受け継いだ形で進行中の、自身のプッサンの絵画作品の研究が先人の業績を慎重に受け継ぎながら、そこに新しい発見や考察を付け加えて― 592 ―

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