ュリオ・ロマーノとラファエロとの関係について論じ、そして《友人のいる自画像》に表されている2人の人物がラファエロとジュリオであり、そこには工房継承をめぐるメッセージが隠されているという教授の見解が示された。この講演は、教授が最近行った研究をまとめたものであった。前半のラファエロ工房の活動については、昨年から今年1月にかけてマドリードのプラド美術館とパリのルーヴル美術館で開催された、ヘンリー教授の監修による展覧会「晩年のラファエロ展」の内容をもとにしたものであり、後半の《友人のいる自画像》に関する考察は、教授が昨年12月発行のapollo誌に掲載した論文「マントの譲渡(Passing the Mantle)」において論じたことである。前半のラファエロとその工房の画家たち、とりわけ彼の右腕的な存在だったジュリオ・ロマーノとジョヴァン・フランチェスコ・ペンニとの関係については「晩年のラファエロ展」に合わせて撮影された作品のX線写真等を用いながら説明がなされた。ラファエロと弟子たちが緊密に協力しあって工房の実態が浮き上がる様は、大変刺激的であった。後半の《友人のいる自画像》の新解釈は、ラファエロからジュリオへの工房の継承を表明するものとする、きわめて斬新なものであった。プラド美術館とルーヴル美術館の「晩年のラファエロ」展が閉幕したのも、教授が《友人のいる自画像》の論文を発表したのも、上記のようにごく最近のことである。それゆえ今回の講演は、ヨーロッパにおける最先端のラファエロ研究をほとんど時差なく我が国の聴衆に伝える、希有な機会となった。また、《友人のいる自画像》に関する議論では、工房の継承のしるしとしてマントを授与しているという教授の主張であったが、技能や相伝のしるしに師から弟子へと何かと授与するという行為は我が国にあっても、職人や芸術家の世界ではよく聞く話であり、それゆえ日本の聴衆にとっては分かりやすく、また興味をひく内容であった。教授の語り口も総じて平明・明快であったため、専門家・一般の別なく、好評であったと思う。なお、当日の講堂はほぼ満席であった。講演は90分ちょうどの長さだったため、質疑応答の時間を設けることは出来なかったが、講演の後に教授に質問や意見を述べる人々が多く見られた。なお、教授側から、芸能の相伝に際して師から弟子へと贈り物をするという例が日本に存在するか、幾人かに質問がなされ、活発な議論が行われていた。2 研究者・美術関係者との交流教授は滞在中、多くの研究者および美術関係者と交流を持った。イタリア美術史の研究者たちとは、9日の講演会の後に意見交換したほか、うち数名とは夕食をともに― 601 ―
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