した。ラファエロ工房によるローマのヴィラ・マダマの装飾について博士論文を提出した研究者は、英語で執筆した論文を教授に手渡し、感想を求めていた。ラファエロおよびルネサンス美術研究に関する話はもとより、イギリスの大学や美術館をめぐる事情からヨーロッパの美術史研究者の動向に至るまで、様々な情報がもたらされた。同席した研究者たちにとっては、教授と交流を持てたことは、大変重要な機会となったに違いない。また、教授の講演会には、わざわざ沖縄からイタリア美術史を専攻する大学院生が足を運んだということも、特筆しておきたい。この学生は教授が研究の第一任者であるルカ・シニョレッリをテーマとしており、教授の来日を知って上京したのであった。教授の帰国後も彼女とはメールのやりとりをしているようで、彼女にとっては研究を進めるうえで大きな励みとなったと思われる。講演会以外では、まず、国立西洋美術館においてラファエロ展や館蔵品について渡辺と意見を交わした。ラファエロ展については、帰属や制作年代について諸説ある作品に関して、またペルジーノとラファエロとの関わりについての教授の見解を伺ったことは、収穫であった。館蔵品については、15世紀フィレンツェの作品を中心に意見を交わした。特にヤーコポ・デル・セッライオの《奉納祭壇画》については、きわめて珍しい主題でかつ良質の作品であるとの意見であった。さらに、国立西洋美術館で今後開催予定のイタリア美術の展覧会について具体的かつ詳細なアドバイスをいただいた。このほかには、文化村で行われたルーベンス展オープニングにおいて、展覧会監修者の中村俊春教授ほか、居合わせた研究者たち活発な議論を交わした。またラファエロ展の共催者である読売新聞社文化事業部の部長、次長とは展覧会の作り方やヨーロッパの美術館事情について情報を交換しあった。なお、当初の予定では京都においても研究者たちと交流する予定であったが、年度末ということもあり、都合が合わなくなり、結局取りやめとなった。3 その他の活動特筆すべきは、読売新聞のインタビューとNHKの収録に対応したことである。9日の講演会の後、はじめ読売新聞のインタビューに答え、次にNHKの収録に応じた。読売新聞のインタビューは全国版の「顔」欄に掲載される予定である。NHKの収録は「日曜美術館」のラファエロ特集(45分枠)のためであり、5月に放映予定である。この番組が国民に美術を普及するうえで重要な位置を占めていることを勘案する― 602 ―
元のページ ../index.html#614