在はスコットランド国立博物館で学芸員をされているロジーナ・バックランド氏にお願いした。25年にわたるJAWSの歴史を振り返りつつ、国内外での日本美術史研究や美術館博物館の現場の状況の変化などについて説明があり、また、今回参加の大学院生にも有益なアドバイスがあった。さて、今回の内容は、9回までの伝統を受け継ぎ、これまでと同様に大きくは二つの柱で構成されている。学生同士の研究発表会と、見学や特別観覧である。研究発表会では、あらかじめ日英のレジュメを作成し、ひとり35分のもち時間で発表と自由討議が行われた。発表内容はいずれも高度な専門性を持ちながらも、それを専門外の学生同士が共有できるような配慮を加えて進められ、国際会議にふさわしい意見交換がなされた。発表はすべて日本語で行われたが、海外から参加の学生の日本語能力はきわめて高く、発表や討議における言語上の問題はほとんどなかった。テーマは仏教美術から近代美術まで多岐にわたったが、学生同士の積極的な質問や議論が絶えず、各発表者は学会発表とは違う雰囲気と充実感を味わったようである。研究発表会は3日目を奈良の古美術研究施設に場所を移して行われた。すべての発表を終え、23日からは奈良、京都での見学、特別観覧を実施した。東大寺大仏殿、大徳寺孤蓬庵、南禅寺天授庵、金地院等を特別拝観させていただいた。社寺での特別拝観は、東京藝術大学が必須科目として行ってきたいわゆる古美研を体験してもらおうと企画されたもので、一般には公開していない場所を拝観することによって日本美術の本来のあり方、自然と一体化する建築空間などを実感することができたと思われる。拝観にあたっては靴下を二重に履くなど、文化財を傷めないようにする配慮やマナーまでも学ぶ機会となった。また、23日には奈良国立博物館においては国宝をふくむ6件の美術作品を特別観覧させていただき、奈良での日程を終了した。24日に東京にもどり、その日の午後、東京国立博物館で特別観覧を実施した。国宝、重文それぞれ3件をふくむ計8件をゆっくりと閲覧することが出来た。辻惟雄氏、河合正朝氏らの顧問の先生方も参加され、学生たちにとっては貴重な体験となったことだろう。翌25日の最終日には、東京藝術大学のコレクションから学生のリクエストに応えて22件の作品を閲覧してもらった。また、初日とこの日を使って、東京藝術大学内の文化財保存学(日本画、彫刻)の研究室を見学し、修復の具体的な方法などについてレクチャーを受けた。作品の制作や修復の現場を実見してもらうことは、実技系大学で開催する最大のメリットであり、大学の特質を活かしたプログラムであった。こうした見学や特別観覧に加えて、これまでのJAWSにはなかった趣向として、今回は大学美術館を舞台としたワークショップを取り入れた。これは、文化庁から「文― 606 ―
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