化遺産を活かした観光振興・地域活性化事業」の名目で助成を受けていることも関連しているが、将来、国内外で美術館や博物館の仕事に関わることも期待される若手研究者たちに、美術館の仕事現場から学んでもらうことを意図したものである。ひとつは、初日の午前中、すなわちプログラムの最初として、作品のディスクリプション演習を行った。参加者の緊張を解く意図もあり、実際の作品を目にしながらそれについて語ることでコミュニケーションの糸口とした。もうひとつは、最終日、最後のプログラムとして専門業者の作業員による彫刻作品の梱包実演を行った。仏像など脆弱で複雑な立体物を梱包する日本の技術は他国に例のない優れたものであり、その実演を目の当たりにすることができた参加者からは質問が絶えなかった。以上が、事前に用意したスケジュールに関する実施報告となる。10日間にわたる行程には東京と奈良を往復する移動があり、参加者にとっては猛暑が続く中での連日の活動であったことから、体調管理が懸念されたが、幸いにも引率を含む参加者全員に体調不良や事故などなく、無事に全行程を終了することができたことは幸いであった。最後に、第10回JAWSにおける最大の成果について報告し結びとしたい。それは、これまで9回のJAWSがそうであったように、世界各国から集められた学生同士がおよそ10日間にわたって寝食を共にし、専門の研究領域はもとより、若手研究者が日頃から抱えている問題について議論し、そして研究以外の面でも大いに語り合い、友情を深めることが出来たということである。お互いに一面識もない初日の堅い表情は、数日のうちに和らぎ、研究発表会を終えた頃には古くからの友人であるかのような信頼関係を結んでいた。このことは、おそらく参加者たちにとって、生涯の宝となるであろう。この記念すべき第10回JAWSの成功は、ご助成を賜った文化庁、公益財団法人石橋財団、公益財団法人鹿島美術財団、公益財団法人平和中島財団および、顧問、実行委員の先生方、そしてオブザーバーとして参加して下さったボストン美術館アン・ニシムラ・モース氏、サンフランシスコ・アジア美術館メリサ・リンネ氏はじめとする関係各位のお力添えなくしてはあり得なかったものと考えており、ここに深く感謝申し上げる。― 607 ―
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