鹿島美術研究 年報第30号別冊(2013)
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り上げた大規模で本格的なシンポジウムとしては、世界初となったことは特筆しておきたい。コロキウムでは「複製Reproduction」という言葉を広い意味に捉え、コピー(模写copy)、レプリカ(模造品 replica)、リメイク(再制作 remake)、フェイク(贋作 fake)など、さまざまな概念やタイプの「複製」が論議の対象となった。複製の問題はあらゆる時代の美術と無縁でないばかりか、現代の美術作品との関わりも密接で、デジタル画像の流布という最近の状況とも関連している。そして、このテーマを扱うためにもっとも相応しい会場として大塚国際美術館が選ばれたのは、それがまさに複製の美術館、それも陶板による同寸大のレプリカによって西洋絵画の「想像の美術館」(A.マルロー)を実現した美術館であったからである。最新の複製技術を駆使する美術館で開催された本コロキウムは、その意味でも高い関心を集めた。また、美術における「複製」の捉え方、位置づけは、日本を含めた東アジアと西洋諸国では違いがあることから、比較の視点、文化交流的な視野から問題を深めることを目標としたのである。さて、1月半ばに開催された鳴門コロキウムは、大雪の影響のために参加者の到着が遅れ、また彬子女王が体調不良のためにご欠席されるという不測の事態があったものの、ほぼ予定通りスムーズに遂行され、成功裏に終わった。参加者は計133名で、うち外国人は35名であった。プログラムを構成したのは、日本を含め世界16ヵ国の多数の応募者から厳選した25名の発表者に基調講演3名、招待発表者4名を加えた、計32名による研究発表であった。世界有数の大学、研究所、美術館に所属する優れた研究者が多数参加し(オックスフォード大学、ニューヨーク大学、メルボルン大学、ゲルマン国立美術館、パリ西大学、北京中央美術アカデミー等々)、質の高い充実した成果を得ることができたのである。1月15日のオープニング・セレモニー(開会式、歓迎パーティー)では、東京大学の小佐野重利教授がコロキウム全体の基調講演として、「洋の東西の美術における複製」という趣旨を適確に表明された。引き続き、翌1月16日、17日と2日間にわたり研究発表が行われ、「西洋美術」(発表者13名)、「東アジアと日本の美術」(同9名)、「美術史における比較と文化交流のアプローチ」(同7名)の三つのセクションに分かれ、二会場(システィーナ・ホールとオープンスペース)を適宜使い分けながら、滞りなく進行した。各々のセクションの最初には基調講演が置かれ、広い視野から美術における複製に関連した問題提起が行われた。中村俊春(京都大学教授)、圀府寺司(大阪大学教授)両氏の司会の下に進んだ第― 609 ―

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