鹿島美術研究 年報第30号別冊(2013)
623/625

「複製」のテーマに関して今後のレフェランスとなるであろう。今回のコロキウムには二つの大きな企てがあった。一つは、全国の美術史関係の大学院生を44名選抜し、参加費の援助を行ったことである。これは、国際シンポジウムを若手研究者育成の場として積極的に位置づける新しい試みにほかならない。多大な刺戟を受け、とても有意義であったという大学院生の感想が多いことから、教育的効果のある有益な取り組みであったと言えよう。以上のように、世界水準の研究集会を日本で開催し得たことは、わが国の美術史学の発展に大いに貢献するものと確信している。外国人参加者たちの評価も、コロキウムの内容に留まらず、会場、運営、食事など全般にわたってきわめて高かった。むろん、問題点や反省点もあって、発表のセレクションの評価基準と方法はさらに練り上げる必要があるし、我々だけの責任ではないとしても、ビザが必要な外国人参加者への対応に万全を期せなかったことも心残りである(最終的に来日できなかった方もいた)。また、コロキウムの開催を情報発信するための広報体制も十分とは言えなかった。とはいえ、本コロキウムが「複製」に関する世界最新の研究成果を集約する画期的な催しであったことは強調しておきたい。国際的に活躍する大家から新進気鋭の若手まで、外国人美術史研究者が多数来日し、日本の研究者が交流できたことは、今後の国際化を促進するきっかけになるであろう。英語標準化の実践と日本の次世代研究者育成という目標も、ある程度は達成できたと自負している。世界における日本の美術史学のプレザンスを示すという意味において、きわめて意義深い催しとなった次第である。(なお、CIHA鳴門コロキウムのプログラム等の詳細については、CIHA Home Pagehttp://www.ciha-arthistory.org/ あるいはhttp://www.l.u-tokyo.ac.jp/CIHA/ で参照することができる。)第2に、今回のコロキウムの発表と司会をすべて英語で行ったという点がある。現今の学問の国際化状況を考えたとき、美術史研究者にとってもコミュニケーション言語として外国語(特に英語)を用いることは必須であろう。多国籍の研究者が集う国際的な場である本コロキウムでは、あえて英語のみを使用言語とする原則を立てたのである。その波及効果を見定めるのは、もう少し後のことになるであろう。― 611 ―

元のページ  ../index.html#623

このブックを見る