研 究 者：青山学院大学 文学部 副手 岡 田 麻 未はじめに日本の女神像はおよそ平安時代初期から造像が始まった。多くの解説では女神像が「唐装」「唐装束」「唐服」と呼ばれる装束を身に着けるとされてきたが、近年これらがどのようなものを指すのか明確な定義がないことが問題となっている（注1）。女神像の着衣の源流については仏教の女性神である吉祥天像（注2）や奈良時代の女官の朝服（注3）とされるなど、その成立は明らかとなっていないのが現状である。また「唐装」「唐装束」「唐服」などと呼び名も異なり一括りにされているが、その装束は同一ではない。本研究は、このように一括りにされてきた女神像の着衣形式を見直し、相違点を明確にすることでその成立と展開について考察していきたい。Ⅰ．9世紀から11世紀までの作例初期女神像の中で制作年代が分かる作品は9世紀半ばから確認できるので、その作例中重要とみられるものを取り上げ、着衣形式をみていきたい。1．京都・松尾大社女神坐像〔図1〕着衣は上衣（上半身に着ける衣）と下衣（下半身に着ける衣）から構成される。上衣は筒袖の衣と大袖の衣を重ねその上に袖なしの衣を着け、いずれも左衽であり、衣を含んで持物を執った跡が確認できる。下衣には裙を着ける。袖なしの衣は背子とされ、『和名類聚抄』巻4によれば「形は半臂の如く腰に襴のない袷の衣」とあり、その作例として正倉院の「呉女背子」（南倉124第43号）〔図15〕が伝来している。制作年代には諸説あるが、いずれも9世紀半ば頃とみられる（注4）。2．京都・東寺八幡三神像のうち女神坐像〔図2〕〔図3〕着衣は両像とも共通し、上衣には内衣の上に大袖の衣を重ねその上に両肩を覆うU字状の衣をかけ、下衣は裙をつける。大袖の上にかけたU字状の帯は従来、背子とされてきたが、「呉女背子」は袖なしの垂領で形状が異なることから、この衣は背子とは別物と思われる。この様な帯状の衣は奈良時代の吉祥天像の飾りと類似するので改めて次章で検討したい。両像とも当初の彩色がよく残っており、漆地に極彩色が施さ― 58 ―⑥初期女神像の唐装についての一考察
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