鹿島美術研究 年報第30号別冊(2013)
95/625

カタカナ名は原書ママ〉〔図2−1〜2〕。また、川上冬崖に学んだ油彩画家の印藤真楯は、油彩画の指南書として、明治39年(1906)に『油絵階梯』を著している。同書の中で印藤眞楯は、「普通必要と認めてしようするものは凡そ二、三十種位であろう」として、アルファベットとカタカナ名の各色を挙げている。パレットに絵具を図解し、「○クロームグリイン、○エメラルドグリイン、○テルレベルテ、○ローアムバー、○エルローヲークル、○ガドミユームエロー、○シルバーホワイト、○ベルミリオン、○クリムドンレーキ 又カーマイン、○ライトレツト、○バーンシインナ、○コバルト、○ニウブルー、○ヲルトラマリン、○アイボリーブラツク、○バンダイキブラオン(以上、カタカナ名は原書ママ)」とある。文章中にある色名の一覧では、アルファベットとカタカナで、「シルバーホワイト(Silver White)、カドミユームイエロー(Cadmium yellow)、エローオークル(Yellow ochre)、ヴエルミリオン(Vermilion)、クリムソンレーキ(Crimson lake)、カーマイン(Carmine)、ライトレッド(Light red)、バーントシインナ(Burnt sieuna)、コバルトブルー(Cabalt blue)、ニウーブルー(Neu blue)、オルトラマリン(Ultramarine)、エメラルドグリーン(Emerald green)、テルレベルテ(Terre Verte)、クロームグリーン(二號)(Chrome green)、ローアムバー(Raw Umber)、アイボリーブラック(Ivory black)、バンダイキブラオン(Vandyke Brown)。〈以上、原書ママ〉」である〔図3−1〜2〕。そして、日本画の絵具においても、原材料に合成染料が用いられるようになる(注6)。年代は不詳ながら、上野得應軒には明治期から昭和期にかけて輸入された色材が複数保管されており、例えばその中に、「ルフラン」「濃紫」と袋に記入がある絵具が存在する〔図4−1〜2〕。これはあるいは昭和14年(1939)の手書きの定価表にのる「舶来紫」に充当するとも推測される(注7)。油絵具の輸入元として著名なフランス、ルフラン社の色材であろう。今日の日本画の絵具は、古来より続く天然材料でのみ作られた絵具が全てではなく、合成染料を用いた人工の絵具も多い。そうした絵具が製造されるようになるのは、まさに近代に合成染料が流入して以降である。日本国内で、描かれるようになる油彩画・水彩画に用いられる色材と色名が加わり、日本画においても新しい色が登場したことは、絵画制作の場において大きな転換が行われたことを意味している。新しい色材の登場は、近代以前の日本画の色材では成せなかった、豊かな混色可能性をもたらし、原色や混色の工夫についての知識への必要性を高めて行くものでもあった。― 84 ―

元のページ  ../index.html#95

このブックを見る