注⑴辻惟雄「伊勢の蕭白画─松阪市の遺品を主として」『國華』952号、國華社、昭和47年、28頁⑵山口泰弘「曾我蕭白の遊歴─伊勢における交遊」『國華』1161号、國華社、平成4年、29頁⑶辻惟雄、マニー・ヒックマン『日本美術絵画全集』第23巻 蕭白・若冲、集英社、 昭和52年、もその奇矯な画風ばかりが注目されがちであった。本稿では、この図に隠されていた複数のイメージについてその典拠を明らかにしつつ、当時の文化的な諸背景との関係も探って考察をおこなってきた。一般に美術作品はその制作当時の文化を反映するものといえようが、「雪山童子図」は複数のイメージを融合しているからこそ、なおさらにそれが顕著だともいえる。既述したように、近世を通じて仏伝のなかでもっとも親しまれたテキストである『釈迦の本地』の普及、さらに雪山童子譚と薩埵太子譚双方の重層的な受容のありかたからは、往時の人々による本生譚への強い関心が認められ、また、羅刹の姿が青色の刹鬼に因んだものであるとするならば、そこには庚申信仰の隆盛ぶりさえ読み解くことが可能だろう。さらにまた、本図においては他の蕭白画にもあるように(注20)、あたかも浮世絵の見立・やつしの絵解き遊びを想起させる趣向をも認めることができるはずだ。本論を契機として、蕭白の「雪山童子図」がさらにより広いコンテキストのなかで鑑賞され、評価がなされることを願いつつ、筆をおきたい。⑷佐藤康宏「蕭白新論」『新編名宝日本の美術』第27巻 若冲・蕭白、小学館、平成3年、97頁⑸小峯和明「東アジアの仏伝文学・ブッダの物語と絵画を読む─日本の『釈迦の本地』と中国の『釈氏源流』を中心に」『論叢国語教育学』復刊3、平成24年、120頁。現存する『釈迦の本地』の絵本と絵巻は124~125頁に収録される。⑹小峯和明「絵巻のことばとイメージ─『釈迦の本地』をめぐる」『魅力の奈良絵本・絵巻』三弥井書店、平成18年、107頁⑺滋賀県立近代美術館、栃木県立美術館編『高田敬輔と小泉斐 近江商人が美術史に果たしたある役割』滋賀県立近代美術館、平成17年、76頁⑻常盤大定『国訳一切経』涅槃部1 大般涅槃経、大東出版社、昭和4年、307頁⑼壬生台舜『佛典講座』第13巻 金光明経、大蔵出版、昭和62年、318頁⑽注⑼同、317頁⑾名古屋城総合事務所編『武家と玄関 虎の美術 開府400年記念名古屋城特別展』名古屋城特別展開催委員会、平成22年⑿ミウォシュ・ヴォズニ「曾我蕭白の朝田寺杉戸絵─「獏圖」を中心に」『國華』1424号、國華社、平成26年、16~17頁⒀青面金剛の図像については、小花波平六「庚申信仰礼拝対象の変容」(『庚申信仰』 雄山閣出版、昭和63年)、嶋二郎「花巻市の庚申塔 第四報─庚申信仰の本尊」(『花巻市文化財調査報告書』第12集、花巻市教育委員会、昭和61年)、町田市立博物館編『青面金剛と庚申信仰』(町田市立143頁― 105 ―
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