― 181 ―ける具象モチーフのなかで最も多い数であり、エーゲ美術において牛は頻繁に描かれていたことが分かる。これらの作品に表わされた場面は「自然の情景」「狩りの場景」「宗教的場面」の3つに大別され、これらの3つはF. ニーマイヤーやD. パナヨトプロスの分類とほぼ一致する(注14)。「自然の情景」は「1頭の牛」、「牛と植物」、「2頭の牛」、「親子」、の4つの場面に分かれる。「1頭の牛」では、1頭の牛が主要モチーフとして画面の中心に配置され〔図1〕、時折大地の表現や埋め草モチーフなどが表される。副次的モチーフとして水鳥やイルカモチーフが画面の空いている部分に描かれることがあるが〔図2〕、主要モチーフは牛のためここでは「1頭の牛」として扱う。該当する作例は牛モチーフの中では最も多い222点を数えた。「牛と植物」は前景に配された1頭の牛の後景に大きな植物が配される情景を指す。植物は棕櫚(シュロ)や3枚の葉を持つ植物、低木のような小ぶりの尖った枝を持つ植物がある。牛の背に植物が配される図が、次に扱う「人間による狩り」の槍が突き刺さる牛と高い類似を示すことから、これの場面が狩りや動物の死を暗示する場面と捉えるが研究者もいるが、定説には至らないため本稿では植物として扱う(注15)。「牛と植物」は「1頭の牛」に含まれる表現ではあるが、「1頭の牛」の約1/3の96点を占めるため独立した項目を設けた。「2頭の牛」は96点あり、それらは2頭の牛が前後に重なった、つまり前景と後景に配された図を指す〔図3〕。牛の頭部の背面はこの時構図で良く認められる。希に3頭の牛が重なり描かれるものがあるが、このタイプの変形と見做す〔図4〕。「親子」では大きな体で表された牛の前足と後足の間に小さな体の恐らく子牛であろう四本足の動物が配された場面を指し〔図5〕、54点確認される。「狩りの場景」では「人間による牛狩」と「動物による狩り」の2つに分かれる。まず「人間による牛狩」は51点が確認され、牛の背や腹部、希に頭部に槍や弓矢が突き刺さる場面である。たとえば、アギア・トリアダ出土の印章では、前景に配された牛の背に、光景に立つ男性が槍を突き刺す瞬間を表す〔図6〕(注16)。しかし、人間が牛と共に表わされるのは希で、多くの印章印影では槍や矢が突き刺さった牛のみが描かれる〔図7〕。これはエーゲ美術の印章によく見られる省略表現の1つで、槍や弓によりその存在が暗示される(注17)。他方「動物による狩り」は104点もの作例が該当する。そこで牛はライオンの獲物として登場し〔図8〕、多くは首や胴体を噛みつかれた瞬間が選ばれる。「宗教的場面」では「牛跳び」「牛獲り」「人間/神に引かれる牛」「生贄」「紋章風」「シンボル」の6つの主題に分かれる。「牛跳び」の多くはフライング・ギャロップで疾
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