― 216 ―ポイントとなったことは間違いない。第2期の作例として、まず《百鳥百獣図》(サンアントニオ美術館蔵)〔図5〕を取り上げる。絹本着色の対幅(各138.0cm×70.7cm)で、右幅の「百鳥図」は隷書体の「噲々其一筆」落款と「元長」朱文壺印、「鋤雲」朱文方印を有し、左幅の「百獣図」は同じく隷書体「天保癸卯春正 噲々其一謹寫」の落款と「元長」朱文壺印、「鋤雲」朱文方印を有する〔図6〕。天保14年(1843)の作である。本作が知られる以前は、「噲々」落款で天保14年作の可能性がある《掛蓬莱図》(プライス・コレクション)が知られていたが、天保14年作と断定はできず(注6)、天保12年(1841)作の《舞楽図絵馬》(浅草寺蔵)が「噲々」落款を用いた有年紀作品の最後の作であった。本作の存在により天保14年まで「噲々」落款を用いていたことが明らかとなり、また隷書体と行書体の落款が同時期に使われていたこと(注7)を示すさらなる事例となった。本作は2012年にニューヨークで開催された「SILVER WIND」展に出品され、Matthew Mckelway氏による図録解説が唯一の先行研究である(注8)。「百鳥図」、「百獣図」とも、切り立つ崖から滝が勢いよく流れ落ち、その水流が画面手前へと続く。無数の鳥や動物たちが所狭しと、丁寧な筆致で細かな部分まで描き込まれている。「百鳥図」のほうは、画面右上の梧桐にとまる白い鳳凰、右の滝の上を飛ぶ山■■■■■鵲、大輪の牡丹と孔■■■■雀の番、その右横の尾の長い鳥は不明(鸞■■か孔■■■■雀の仲間か)、左上の松にとまる金■■■■鶏、白■■■■鷴の番、下へ向かって飛ぶ姿と岩にとまる姿で描かれる三■■■■■■■光鳥の番、その下には空中を舞うひときわ大きく描かれる鷲■■、松にとまる鷹■■と白■■■■鷹、その下の羽を広げかけた角■■■■鷹、画面中央には猩■■■■■■■■■々鸚哥、大■■■■百舌、黄■■■■芭旦、九■■■■■■■■官鳥、楓には3羽の鵲■■■■、懸■■■巣、青楓には八■■■■■■歌鳥、雉■■■■鳩の番、嘴■■■■■■■細烏の番、銀杏と柿の木の周辺には、梟■■■■と下を向いて枝にとまる大■■■■■■■木葉木菟、その周りには3羽の鵯■■■■、4羽の椋■■■■鳥と交■■■喙のような鳥、赤■■■■啄木鳥、蟻■■■■吸、百■■舌鳥の番、頬■■■■白、山■■■■雀の番、大■■■■瑠璃の番、尉■■■■■■鶲、3羽の目■■■白、3羽の四■■■■■■十雀、相■■■■■■思鳥、3羽の雀■■■、鶉■■■、その上空を飛ぶ鳶■■と田■■■鴫、丹■■■■■頂の番と2羽のヒナ、水辺の3羽の真■■■■鶴、袖■■■■■■黒鶴の番、5羽の千■■■鳥、羽をひろげる蒼■■■■鷺の幼鳥か、雁■■、河■■■鵜、箆■■■■鷺、2羽の唐■■■■■■白鷺、蒼■■■■鷺、白■■■■■■鶺鴒、鴛■■■■鴦の番、3羽の鵞■■■■鳥、真■■■鴨の番、鳰■■■■■の番、水■■■鶏、2羽の翡■■■■翠、鷭■■、都■■■■■鳥の番、鴇■■、岸辺の5羽の真■■■雁の家族、鶩■■■の番、2種の鶏■■■■の番と5羽のヒナ、土■■■鳩の番、竹にとまる鶯■■■■、燕■■■、山■■■■鳥の番、雉■■の番、頭■■■■■高の番、山鳥の下で椿の枝にとまる鳥は不明、鷽■■、雲■■■雀、金■■■■糸雀、その左隣の鳥は不明(金糸雀の番か)、文■■■■■鳥の番、白■■■■■子鳩の番、桜の上空に3羽の尾■■■長、木蓮の上空の杜■■■■■鵑、以上77種137羽の鳥が描かれている(注9)。
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