― 243 ―スタフ・スティックリーによるミッション家具が、安価なミッション様式となっていまだ受け入れられていた時期であり(注21)、1900年代にはフランク・ロイド・ライトがシカゴ郊外にプレーリー・ハウスを設計し、垂直性と水平性を強調した家具をデザインした後でもある。しかし、木檜は、こうした家具の存在や流行に言及することはなく、アメリカの著しい科学的進歩を日本に輸入することが日本の将来のための最大の勤め(注22)、として、家具生産の技術的、組織的発達をアメリカ家具産業の眼目としている。3.生活改善の家具「簡易家具」と合理性、簡易性への視点しかし、先に挙げたように、木檜の大量生産論の特徴は、造形性も重視している点である。大量生産のための統一された図案、スタンダードの創出を力説しているが、どのような造形が相応しいとされたのか。大量生産に相応しい家具とは、木檜の大量生産論の前提である生活改善運動における家具であったといえるだろう。その生活改善のための家具の条件は、「簡単で堅牢で且つ外観にも相当の注意を払」(注23)った家具であり、「物質的即ち科学的の文明と精神的即ち趣味的文明の有らゆる施設を良く受け入れ」(注24)た家具であった。工作、構造の面だけでなく、美的側面にも注意が払われ、造形性が生活改善運動における家具でも問題とされたことが分かる。そして、この生活改善のための家具として提示されたのが「簡易家具」である。『木工と装飾』1920年12月号は「簡易家具号」であるが、その号の冒頭には、特集の理由として、生活改善のための椅子式家具を咀嚼し、真の日本家具を現出させる必要性が述べられており(注25)、「簡易家具」が生活改善のための家具であったことが分かる。また、この「簡易家具」は「シンプルファニチャー」の訳として木檜によって命名されている(注26)。木檜はこの他にも折り畳み家具や兼用できる家具を推奨し〔図5、6〕、装飾性について、実用性が必然的に美化されることを述べている(注27)。木檜設計の「簡易家具」〔図7、8〕や生活改善展覧会のための家具〔図5、6〕、そして、装飾性に対する視点を考え合わせると「簡易家具」に代表される生活改善のための家具とは、無駄を省いて実用性が高く、またそうした実用性に相応しい飾りとしての装飾性を抑えた直線、平面を基本とした家具であったといえる。そして、そこで重視された造形性とは、材料や構造を含めた合理性と簡易性であったといえよう。生活改善運動は、生活のあらゆる無駄を省き、能率を上げることを第一としたが、それらは合理主義的思考に基づいていたといえる。生活様式の転換は、日本の生活様
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