鹿島美術研究 年報第31号別冊(2014)
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1 張即之の書の分類研 究 者:京都造形芸術大学 非常勤講師  峯 岸 佳 葉はじめに中国の南宋時代の能書張即之(1186〜1266)の書は、鎌倉時代より日中の禅僧の交流によって我が国にもたらされ、以後の日本に大きな影響を与えてきたといわれる。この張即之の作品や人物に関する研究は、中田勇次郎『書道藝術 第7巻』(中央公論社、1976年)が体系的かつ先駆的な存在であるが、近年は傅申氏や陳根民氏などの中国の研究者により進展をみている(注1)。一方、日本における張即之書法の受容に関しては、小松茂美氏や春名好重氏の文献史料に基づく研究や、角井博氏の現存の張即之作品に基づいた研究がある(注2)。このような中で、これまで研究者によって見過ごされてきた張即之の作品群が、桃山時代頃より盛んに製作された「手鑑」の中に存在する。「手鑑」は歴史上の人物の書の数々を貼り込んだアルバムのようなものだが、完備された「手鑑」には日本人の書に加えて数葉の唐筆(中国人の書)が収められることが多く、この唐筆の代表格が張即之の書である。これらの作品は切断され一部が断簡となり、各地に散在する「手鑑」に収められているため、これまで「手鑑」所収の張即之の断簡の研究はなされてこなかった。そこで、本研究ではこの「手鑑」所収の断簡を中心に日本伝来の張即之の書を収集し、その内容の解明につとめ、作品本来の姿の想定を試みた。これらの断簡は、中国で切断されたのではなく、日本で「手鑑」への所収や、茶掛けとしての使用に際し切断されたとみられることから、かつて相当数日本に伝来していたであろう張即之作品の全体像の把握につながるはずである。張即之の書は、大きく以下の4種に分類される。・榜書:主に東福寺に伝来した楷書の額字の類。字径約30〜40㎝。・大字:詩を1行2〜3字の形式で書いた楷書の類。字径約10〜15㎝。・中字:楷書の写経の類で、字径約2〜3㎝。・小字:行草書で書かれた尺牘の類で、中字よりも更に小さいもの。今回注目した「手鑑」所収の断簡は、多くが大字であり、稀に榜書に類するもの、中字の例が確認された(注3)。また、明らかに張即之の書とは別筆の紺紙金字また― 271 ―㉕ 日本における張即之書法の受容について  ─「手鑑」所収の断簡を中心に─

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