― 272 ―は銀字経の断簡に「張即之」の極め札が付されているケースもあり(注4)、日本における張即之の受容のあり方として理解されよう。2 張即之の大字とその内容について日本伝来の張即之の大字の断簡を見る前に、まずは中国に現存する張即之の大字を確認しておきたい。世界的に見ても、管見に及ぶ限り、張即之の大字は、中国に現存する以下の4点のみで、全て巻子の形態である(注5)。①杜甫「紫宸殿退朝口号」「贈献納司起居田舎人澄」二首 遼寧省博物館蔵 34.6×1286.9㎝②杜甫「戯為双松図歌」北京故宮博物院蔵 33.8×1196㎝③李賀「高軒詩」上海博物館蔵 33.0×387.8㎝④王禹偁「待漏院記」上海博物館蔵 47.2×3266.5㎝これらは、④が1行3字形式の巻子であるほかは、全て1行2字形式の巻子である。また、4点の作品のうち2点が杜甫の詩であるが、日本伝来の最も著名な大字2点(後述の智積院および円光寺蔵の断簡)も杜甫の詩の一部である。また、中国の歴代の書画録には、張即之の書いた杜甫の詩の記載が多数あり、なかでも杜甫「古柏行」の記載が多く、その存在が広く知られていた(注6)。このように、張即之は杜甫の詩を特に好んで書いたようである。よって、今回の調査により収集した日本伝来の断簡も、杜甫の詩を書いたものである可能性は高い。特に「手鑑」所収の断簡は1〜4字と字数が少ないが、それが杜甫の詩であれば『全唐詩索引 杜甫巻』(中華書局、1991年)によって、何の詩であるかをある程度特定することが可能となる。3 日本伝来の張即之の大字断簡について今回の調査によって確認された日本伝来の張即之の大字の断簡は、文献の記載のみのものを含めて31件であった。これを列挙したのが、〔表 日本伝来の張即之の大字〕である。〔表〕の左端には、便宜上の「no.」として、1行2字形式の断簡は@2、1行3字形式は@3、それ以外は*とし、続けて−01から順に番号をふった。続いて、「断簡の文字」、「サイズ」(注7)、「所蔵」、手鑑に所収の場合はその「所収手鑑」を記した。また、「図版」の欄には、図版または実物を実見できたものに○を、文献の記載のみ確認できた断簡は空欄とし、「参考文献」の欄に記載のあった文献名を記した(注8)。右端の「内容」の欄には、断簡の文字から特定した(可能性を含む)詩文の出典を示した。
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