― 274 ―甫巻』によれば、杜甫の詩のうち「甕」とあるのは「洗兵馬」を含め7件である。他の6件の詩を書いた日本伝来の大字を確認できないことから、@2−06は杜甫「洗兵馬」の断簡の可能性が高い(詩の 線部)。また、筆跡の特徴も、@2−02、@2−03、@2−05に極めて近いことから、これらと同筆と判断する。また、@2−07は出光美術館蔵の手鑑『浜千鳥』所収の「長不」断簡であるが、杜甫の詩のうち「長不」とあるのは3件のみで、やはり「洗兵馬」の断簡の可能性がある(詩の線部)。但し、「長不」の字間には紙の折れ目あるいは切れ目があるように見える。これが紙の切れ目であるとすれば、本来は改行されていた2字や、別の箇所にあった2字を継いでいる可能性も考えられる。なお、「洗兵馬」を1行2字ずつ書けば通常は「長不」の間で改行されるはずで、紙の切れ目があるのも肯ける。もし別個の2字を継いだとすれば、詩の特定は困難であるが、「長不」のような単独では意味をなさない2字をわざわざ組み合わせることは考えにくいのではなかろうか。中興諸將收山東。捷書日報清晝同。河廣傳聞一葦過。胡危命在破竹中。祗殘鄴城不日得。獨任朔方無限功。京師皆騎汗血馬。回紇餵肉葡萄宮。已喜皇威清海岱。常思仙仗過崆峒。三年笛裏關山月。萬國兵前草木風。成王功大心轉小。郭相謀深古來少。司徒清鑒懸明鏡。尚書氣與秋天杳。二三豪俊為時出。整頓乾坤濟時了。東走無復憶鱸魚。南飛覺有安巢鳥。青春復隨冠冕入。紫禁正耐煙花繞。鶴禁通霄鳳輦備。雞鳴問寢龍樓曉。攀龍附鳳勢莫當。天下盡化為侯王。汝等豈知蒙帝力。時來不得誇身強。關中既留蕭丞相。幕下復用張子房。張公一生江海客。身長九尺鬚眉蒼。徴起適遇風雲會。扶顛始知籌策良。青袍白馬更何有。後漢今周喜再昌。寸地尺天皆入貢。奇祥異瑞爭來送。不知何國致白環。復道諸山得銀甕。 隱士休歌紫芝曲。詞人解撰河清頌。田家望望惜雨乾。布穀處處催春種。淇上健兒歸莫懶。城南思婦愁多夢。安得壯士挽天河。淨洗甲兵長不用。なお、前掲『書道藝術7』の木下政雄氏の解説によれば、⑴杜甫「黄草」と⑵「洗兵馬」は本来一つの巻物で、〔表〕の*−01はこれらの末尾にあたり、水戸徳川家に伝来したという。⑴「黄草」の全長を@2−01から換算すると約5.5m、⑵「洗兵馬」の全長を@2−02から換算すると約24.6mとなり、長大な巻子である。*−01には「宝祐元年十月張即之書于翠巌山絜廬東軒」とあり、宝祐元年(1253)張即之68歳の書である。
元のページ ../index.html#284