鹿島美術研究 年報第31号別冊(2014)
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(3)杜甫「樂遊園歌」断簡― 275 ―(4)杜甫「枏樹為風雨所抜歎」断簡今回初めて存在を確認し、所蔵者の御好意により実見に及んだ〔表〕の@2−08(〔図@2−08〕参照)個人蔵の「綿碧草萋々長公子華」断簡と、@2−09(〔図@2−09〕参照)近衛家旧蔵で現在はアメリカのメトロポリタン美術館蔵の「幕排銀牓拂水低徊」断簡は、ともに杜甫「樂遊園歌」の一部である(以下の詩の  線部)。@2−08と@2−09は、ともに断簡の2行目に紙継ぎがあり、継ぎ目の上に文字がのっている点も共通しており、間違いなく一連の断簡である。また、@2−10の梅沢記念館蔵の手鑑『あけぼの』所収の「崒森」断簡についても、杜甫の詩のうち「崒森」とあるのは「樂遊園歌」のみで、以下の詩の 線部の可能性が高い。ただ、@2−10の筆跡は、全体に線が太く、張即之の書に特有の線の太細の妙が見られないこと、横画の右上がりが強すぎることなどから、真跡とは認めがたい。しかし、他に「樂遊園歌」の断簡が伝来することから、@2−10は張即之の真跡から写されたものであろう。ここには、大系的な「手鑑」編纂のために、唐筆として張即之の書を収めたいという「手鑑」の製作者の意図が反映されているように思われる。樂遊古園崒森爽。煙綿碧草萋萋長。公子華筵勢最高。秦川對酒平如掌。長生木瓢示真率。更調鞍馬狂歡賞。青春波浪芙蓉園。白日雷霆夾城仗。閶闔晴開昳蕩蕩。曲江翠幕排銀牓。拂水低徊舞袖翻。緣雲清切歌聲上。卻憶年年人醉時。只今未醉已先悲。數莖白髮那抛得。百罰深杯亦不辭。聖朝亦知賤士醜。一物自荷皇天慈。此身飲罷無歸處。獨立蒼茫自詠詩。〔表〕の@2−11(〔図@2−11〕参照)のふくやま書道美術館蔵の「髴聞蝉東」断簡は、以下の杜甫「枏樹為風雨所抜歎」の詩の 線部にあたる。また、@2−12(〔図@2−12〕参照)の三井記念美術館蔵の手鑑『高松帖』所収の「地至」2字の断簡も、杜甫の詩のうち「地至」とあるのは「枏樹為風雨所抜歎」のみで(以下の詩の 線部)、@2−11、@2−12は一連の断簡の可能性が高い。更に、@2−11は「髴聞寒蝉東」の「寒」が脱字となっている。その場合、1行2字の字送りが1字ずつずれ、本来ならば@2−12は「地至」の間で改行すべきところ、脱字の影響を受け「地至」と1行に書いている。即ち、上記の脱字という現象が、@2−11、@2−12が一連の断簡であることを裏付けている。 倚江枏樹草堂前。故老相傳二百年。誅茅卜居總為此。五月髣髴聞寒蝉。 東南飄風動地至。江翻石走流雲氣。幹排雷雨猶力爭。根斷泉源豈天意。

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