鹿島美術研究 年報第31号別冊(2014)
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 ─狩野梅笑筆「牡丹流水図」(韓国・国立古宮博物館蔵)を中心に─研 究 者:東京都江戸東京博物館  学芸員(専門調査員)  朴   美 姫― 340 ―はじめに本研究は、日本で制作された屏風絵の朝鮮への贈答をとおして、両国間における美術をとおして見た文化的な差異や共通性を探る試みである。日本の美術史学では屏風絵は、家具調度としてではなく、むしろ大画面の絵画作品として評価され、近代以降の美術史学において、様式、筆者、モティーフ、用途、輸出などの側面から探究され、赤沢英二、武田恒夫、榊原悟らによる先行研究の蓄積があった(注1)。しかしながら、とくに朝鮮国王に贈呈された贈朝屏風について、従来の研究のように、発信元の日本からの研究だけでは不十分であり、贈られた側、すなわち受信先の朝鮮からの研究もおこなうことで、贈朝屏風をめぐる研究は十分な理解を得ることができる。このような発想から、日本と韓国側の作品・文献を丁寧に検討し、これまで、韓国・国立古宮博物館に残された「田雁秋景図屏風」〔図1〕、「牡丹流水図屏風」〔図2〕の2点の現存屏風と、文献上からのみ知られる己酉約条締結の際に贈られた「金屏風五對」中の「楊貴妃図屏風」の3点の屏風について考察してきた(注2)。その結果、宮廷に残された屏風には、英祖の賛文が書かれるなどの特別な理由が付加されており、それゆえに残されてきた可能性が浮かび上がってきた。本稿では継続して取り組んでいる贈朝屏風研究の一環として、韓国・国立古宮博物館に現存する「牡丹流水図」に注目し、中国にはじまり、日本でも奈良時代から愛好され、「富貴」のシンボルとして絵画や蒔絵など様々な美術工芸品に表された牡丹という画題が、18世紀の朝鮮でどのように受け止められ、用いられてきたのか、韓国に現存する行事画や、文献また他の絵画作品を用いて具体的に考察していくことにする。1.狩野梅笑「牡丹図」の考察 現在は韓国・国立古宮博物館が所蔵しているが、本来は昌德宮(注3)という朝鮮王朝と大韓帝国の宮殿が所蔵したものである。右下の落款にある墨書「梅笑図」と「栄信」印から深川水場町狩野家の3代目、梅笑師信(1728−1807)筆とされているこの作品は、6曲屏風の1隻であり、明和元年(1764)10代家治(1737−86)の将軍職㉛ 近世における日韓絵画交流の研究

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