鹿島美術研究 年報第31号別冊(2014)
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2.朝鮮時代における「宮牡丹屏」1)「宮牡丹屏」の種類と形式― 342 ―また捻られ、穴のあいた岩の表現は朝鮮の牡丹図においても目にすることができる〔図4〕。宮廷の牡丹図屏風の中では必ずといってもいいほど穴のあいた岩の表現がよく用いられている。中国花鳥図によく見られる太湖石に源流をもつモチーフだと理解されているが、特に朝鮮時代の絵画では石がもつ象徴的意味、すなわち不滅の象徴、陰陽の理致を意味し、儒教思想の根本である、忠節、節義などを精神世界に比喩し多様で特徴的な技法で表現している。いっぽう、「牡丹流水図」に描かれている岩の表現は桃山から江戸時代の狩野派をはじめ漢画系の絵画によく見られ、江戸城に描かれた障壁画からも「牡丹流水図」のような岩の表現を数多く発見できたことから、この表現も狩野派の様式として解釈することができる。本屏風に描かれた流水は、所々渦を巻きながら下へ下へと送られて行く。それは流れる水の流動感を作ろうとした画家の意図であると思われる。流水の色は濃淡によって度合を異にしたかすかな変化を受け高低の差を暗示している。広々とした余白感が感じられないのは、雲の存在があったからではないだろうか。では「牡丹流水図」を受容する側であった朝鮮後期の宮廷における牡丹を主題にした作品について確認してみよう。朝鮮の宮廷で制作された絵画の中で多くの数を占めるのは牡丹を画題としてとらえ、装飾的な様式で描かれた屏風である(注6)。このような屏風は朝鮮の宮廷では「牡丹屏」と呼ばれ、一般的に「宮牡丹屏」として通称されてきた(注7)。「宮牡丹屏」は朝鮮宮廷ではめでたい儀式だけではなく、神をまつる儀式、凶事に関する儀式のように特別な宮廷の儀式に使用された儀式画であり、「牡丹屏」の制作は宮廷の図画署の画員にとって重要な任務だった。現存する宮廷用牡丹屏は4曲、6曲、8曲、10曲の形態をし、高さは170cmから300cm、幅は1曲あたり45cmから115cmくらいが一般的だったと思われる。表具を含め、最も高いのは4mに至るものも現存している(注8)。宮牡丹屏は大きく2種類に分けられるが、まず1つ目は牡丹を土波の上に描いたもの〔図5〕、2つ目は石の上に牡丹を描いたもの〔図6〕で、「怪石牡丹屏」とも記録されている(注9)。このように石が描かれている場合、2つから3つのパターン化した絵を使用し、花の色に変化をもたらすこともあるが、全体的には構成が同一な画面を彩色のみ変え2曲制作した後これを連接し制作したことがわかる。しかし土波に描かれている牡丹図は同一

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