2)文献記録からみた朝鮮時代における「宮牡丹屏」の使用について― 343 ―な絵を反復し、色に変化をもたらしている。現存する宮牡丹屏はすべて無落款であり、毀損時再生産できる儀仗の性格を持っている(注10)。全般的に宮廷用の牡丹屏風は画面の構成において垂直性と正面性が強調され、対象の描写方式が平面的であることから立体感や生動感が弱い。宮廷用の牡丹屏からは造形的な面において保守的な傾向が見られ、自然主義的な表現や画家個人の個性は意図的に排除されていると判断される。このような特徴は宮廷用牡丹屏が一般的な鑑賞用の絵とは異なる様式を持つことを意味するのではないだろうか。また宮牡丹屏にはある主題を取り上げようとする意図を見つけることができないこと、均一化された画面が連続的に並べられていることから葬儀のような厳粛で敬虔な雰囲気で行われる儀礼の性格に合うと考えられる。このような理由で牡丹屏が日常性から離れた特集な時と場所に適切な儀物として認識され、そのような性格の儀礼、すなわち先祖を仕える際にはほとんど例外なく使用されるようになったと思われる。朝鮮の宮廷において、牡丹図は「宮牡丹屏」として、王の肖像画を安置するときの装飾画をはじめ王と王妃が過ごす場所は言うまでもなく、宮廷の儀式に集中的に使用された宮廷の重要な儀礼用の屏風であった。その中でも「宗廟親祭規制図設屛風」〔図7〕第8曲目の「親上冊寶儀図」〔図7−1〕に描かれている牡丹図は神室に納入する前の儀物を保存する場所に使われている。ここで使われた牡丹屏は、儀式で最も重要な遺物を安置する用途として使用されていたことが確認できる。国葬儀礼時の牡丹屏使用の様子を記録している英祖(在位1724−76)の命で編纂された『国朝喪礼補編』は、葬礼儀式の順序と場所、また対象人物の位階によって使用される屏風の種類を明確に区分し、国葬用屏風の使用の様子を具体的に把握することができる。たとえば死体に服を着せるなどの時には素屏〔図8〕を、国王の葬礼時には6曲の五峯屏〔図9〕を、王妃と王世子及び以下の王室家族の葬礼時には牡丹屏を使用するように規定されている。ここで注意しておきたいことは『国朝喪礼補編』に記録されている牡丹屏使用に関する規定は英祖時代に急につくられたことではないということである。現存する儀軌の中で最も古い葬礼用牡丹屏に関する記録は1608年宣祖の国葬に関する記録『国葬都監儀軌』から魂殿〔図10〕に3隻の牡丹屏が設置されていたことが確認されている。この記録以外でも英祖以前の記録に牡丹屏について記録されていることから、『国朝喪礼補編』の牡丹屏の使用規
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