■ 本図の典拠となった「みかゝねときよきこゝろのかゝみ山くもゝあらしのさへわたりつゝ」の和歌は、仏教的な「心の月」を鏡山という歌枕に寄せて詠んだものという解釈の余地もあろう。仏性に目覚めた境地がこのような平淡で余白の多い画様としてイメージされているのが興味深い。一方で遠景と近景の対角線構図は、月に象徴される仏の世界と前景の現実世界が断絶する浄土教的他界観が反映されているようにも見える。近世初期には現実世界を離れたところに真実はないとされるようになるが、本図から遠景を除くと新やまと絵様式とよく響きあう。■ 「狩野探幽筆観楓図解」『國華』547、1936年。■ 阿部泰郎「慈童説話の形成(上下)─天台即位法の成立をめぐりて─」『国語国文』53−8・9、1984年では、中世に菊慈童説話が本覚思想に基づく支配者の統治理念「治国利民法=一心三観の天台教門」の慈悲を表す寓話とされていたことが指摘される。■ 曽根原理『徳川家康神格化への道』吉川弘文館、1996年。■ 前掲注⑴松島著書、131頁他。■ 前掲注⑴松島著書、87頁。■ 石毛忠「江戸時代初期における天の思想」『日本思想史研究』2、19681年。― 368 ―図版出典図1 『狩野探幽』展覧会図録 日本経済新聞社 2002年。図2 『日本美術全集17 狩野派と風俗画』講談社 1992年。図3 『名品観賞 徳川美術館』東京出版新聞局 1982年。図4 『根津美術館蔵品選 書画編』根津美術館 2001年。図5 『徳川家康の肖像 江戸時代の人々の家康観』展覧会図録 德川記念財団 2012年。図6 『絵巻』展覧会図録 京都国立博物館 1987年。
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