鹿島美術研究 年報第31号別冊(2014)
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― 32 ―(観察による基本記述)作品〔図1〜6〕は白大理石の一石材に彫られ、高さは1.24m、幅は0.90m、長さは1.14m。大理石の産地については、精緻な分析はこれまで行われていないが、ピレネー山脈など地元産の大理石であると指摘されている。欠損が多く、作品自体がまず上下2つに割れており、下部分の上面はかなり磨耗している。作品が廃棄された後、上下別々にされており、特に下部分は保存のための条件が悪い場所に置かれていたことが推測される。柱廊玄関と円蓋屋根に覆われた奥室(ケッラ)の二つの部分からなる神殿の形を成している。建物は高い基壇(高さ20cm)の上にのる。基壇の上部には、18cm間隔でドリルによりあけられた小さな穴が規則正しく並び、基壇の前面の左右には、それぞれ長方形のホゾ穴が開けられ、その2つのホゾ穴の少し内側、基壇の下方に、正方形のホゾ穴が存在している。前方の柱廊玄関は長方形であり、左右に2本ずつの柱が立っているが、全ての柱は柱礎部分を除いて欠損している。左右それぞれの2本の柱の間には、うろこ模様の透かし彫り細工が施された障壁の下部が残されている〔図3〕。奥室の外壁のプランは多角形であり、それぞれの角に付け柱があり、合計5本を数える。発見時、すべての柱身は欠損していたが、現在奥の3本が復元されている。柱身が欠損したままの2本の柱頭を観察すると、底面と柱礎の上面の中央にホゾ穴が掘られており〔図4〕、また復元前の写真の欠損状況から判断しても、この5本の柱の柱身は元々別材によって作られていたと見なすことができる。奥室(ケッラ)の床面は不定形な半八角形をしており、右側半分弱の部分が台状(高さ20cm)に彫り残されている。奥の壁、中軸のすぐ左の壁が、柱と柱の間の面が全て開口部となっている。この開口部の低い敷居の中軸上に切込みが掘られている〔図5〕。柱廊玄関の床面には正方形の形に先端のとがった鑿によって比較的雑なつくりの溝が彫られている〔図6〕。その中軸上に鍵穴型の窪みが一つ、左に小さな鍵穴型の窪みが一つ、奥に丸い窪みが一つ観察される。柱廊玄関の奥の壁面には半円形の壁がんが設けられており、壁がんは貝模様で装飾された穹窿で覆われている。壁がんの中軸上に開口部(幅11.5cm)が設けられており、そこから奥の部屋へ通じている。ケッラと柱廊玄関の壁がん部分を覆う屋根は、ケッラの壁面に対応したなだらかな八角錘形であり、それぞれの三角形の面のつなぎ目はリブで飾られている。屋根の頂部にはホゾ穴があり、何らかの装飾物がはめ込まれていたことが分かる。屋根の下部、

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