研 究 者:インディペンデントスカラー 永 田 真 紀一 調査研究の概要問題点中世後期から近世初期にかけて描かれた名所図屏風は、単に名所を描いた絵画であるのみならず、山水画・風俗画・都市図など様々な側面を持つ、極めて魅力的な作品群である。それらは、土地の歴史や物語をヴィジュアルに語る資料として、美術史の範囲を超えた重要性を持っている。しかしながら、地方の名所を主題とした屏風絵の研究は一部を除いて深化しているとは言い難く、現存作品の全貌すら把握されていないのが現状である。その主な理由は、研究が造形的な面の追求に偏っていることにある。結果として、図様や様式の分析、絵師と受容者との関係、一双形式における名所の選択、描かれている名所のイメージなど、まだ十分に解明されていない基本的な問題が多く残されている。これらの問題点を踏まえ、次のような目的で調査研究を実施した。調査研究の目的天橋立を中心に地方名所を主題とした屏風群の情報を収集し、基礎データを整理することを主たる目的とした。また。天橋立図については、詳細な図様や表現方法を比較検証し、祖本系統や「型」の種類を明らかにしたい。実際の地形や現在の景観、土地の歴史や物語を合わせて鑑み、屏風絵に宿されている土地のイメージも解明してみたいと考える。二 名所図屏風に見る天橋立図の諸相屏風絵に組み合わされる名所天橋立が主題となる名所図屏風を集め、基礎データをまとめたものが〔表1〕で、管見の限りでは、三十例が確認された(注1)。(以降、個々の作例を識別するために、必要に応じて表中の番号を付記することとする。)通覧した結果、一双形式で組み合わせられる場合、他隻に描かれるのは厳島であることが一番多く、次いで和歌浦となっている。宮島新一氏は、『細川玄旨集』や『兼見卿記』の記述から、中世においては天橋立は富士山と組み合わされるのが通例であったとされているが(注2)、現存― 421 ―㊳ 中近世における名所図屏風の展開 ─天橋立図を中心として─
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