【A群】A類の主な特徴は、智恩寺境内を含む周辺の地形が鍵穴のような形状に描かれる。智恩寺境内部分が円形で山門から涙が礒方面へかけては台形で描かれている。この「鍵穴」型はこの二例をおいて他になく、第一の特徴とした。― 424 ―てた。無論、図様の詳細な比較だけでは類型や祖本系統の有効な判断にはならないが、一つの可能性の根拠にはなりうるのではないかと試みるものである。また、特定の建造物が画中に登場しないことは、景観年代や制作年代の決定的な根拠にはならないことを予め述べておかねばならない。非写実的な表現や、イメージの復元や図様の省略など、制作過程で画師の意図があることも考慮しなければならない。以降の図様比較は、年代特定よりも類型化のための一つの指標になるのではないかと仮定し、分析するものである。グループ分けした基準とその特徴、さらに類型から考えられる可能性は次の通りである。図様の比較から分類したのだが、その結果を法量と照合したところ、同じような近似性が認められた。また、他隻の厳島図から検証した場合、知念氏の提起する類型と違うものではなかった(注5)。まず、個人蔵本〔図1〕と黎明教会本をA群とした。同一工房の制作であると推定していたが、詳細な図様を抽出して比見したところ全項目で一致するという、驚くべき結果となった。このことは他隻の厳島図においても同じ結果であった。〔図2〕〜〔図7〕は、橋立砂嘴上、籠神社、平舞台の部分図で、若干の差異はあるものの図様の形状や配置はほぼ同一である。現存する天橋立図屏風全体というマクロ的視点から言えば、A類ほど酷似している例はない。また、籠神社の前に四角い池が存在していることを第二の特徴においた。神社前の池の存在という枠組みでみれば、次のB群の三例とも共通する。しかしながら、A群は四角い形状で明確に描かれていることから、これらとは区別した。雪舟筆「天橋立図」でこの部分を見れば、鳥居から神社に向かう参道は白く抜かれ、その両脇は淡墨で四角い何かの存在を表している。島尾新氏が紹介されているギメ美術館本でも(注6)、同様の形状が見られる。雪舟画ではこの部分は明確になっておらず、図様から水景だと見方によっては判断されるかもしれない。底本が雪舟画であるかどうかは不明であるが、ギメ美術館本の画師はそこを空き地と判断したのだろうか。垣の前に樹木を添えている。敢えて憶測を述べてしまうと、雪舟の「天橋立図」から図様が継承されていく過程で、池のような景観に変化した可能性もあるかも
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