鹿島美術研究 年報第31号別冊(2014)
435/620

【B群】A群に近い造形表現でありながら、C群やD群と共通する図様も見られる中間的な存在である五例をB群とした。分類する上で注目した点は、智恩寺文殊堂が裳階付きで六角堂に描かれること、山門が描かれていないこと、境内にある鳥居の方角が北東であることを挙げておく。A群との親縁性は、智恩寺境内の北東面に確認される柴垣や、海を挟んで拝む人物とセットになった天女堂、籠神社の池(和歌山県博本を除く)、第六扇上部の牛飼いと冠木門などの図様である。また、C群やD群との共通性は、出入りある雲のような半島に描かれている智恩寺境内の形状である。【C群】【D群】― 425 ―しれない。天橋立図の作例全体を通覧してもわかるように、このA群の天橋立図は絵画空間に安定感があり、景観描写や風俗描写も精緻である。以降でも述べるが、A群には一つの「型」の形成を見ることができ、あらゆる要素を網羅していることから、天橋立を主題とする屏風絵のある種の完成型と言っていいだろう。強いて言うならば、このB群は、籠神社前の池の有無でさらに二つに分けることもできるだろう。この場合、たばこと塩博本は、池だけではなく牛飼いの図様も無いことから、C群とつながりのある作例であると位置づけられる。和歌浦図を他隻とする大倉集古館本と佐野美術館本の二例をC群とした。A群〜C群までは共通する点が多い。このC群は文殊堂の建築様式などはB群と近い。籠神社の鳥居の方角に関しては、A群と同じで北西となっている。しかしながら、先の両群に見られた籠神社の池は存在しない。さらに、このC群から以降は、第六扇の最上部に牛飼いが冠木門に向かう場面が省略されることとなる。また、次のD群との共通する点を挙げておけば、智恩寺境内に毛氈を敷いて酒宴に興じている場面である。酒宴の様子が砂嘴上に描かれているケースは珍しくなく、類型の枠を超えて散見される。しかしながら、智恩寺の境内で毛氈を広げ、遊興に耽る様子が描かれるのは、類型上はC群とD群にほぼ限られている。このグループの第一の特徴には、遠景の空間表現を挙げておく。画面最上部には、山々の頂を越えて空が表現されている。それゆえ絵画空間に奥行きが生まれ、遠望す

元のページ  ../index.html#435

このブックを見る