鹿島美術研究 年報第31号別冊(2014)
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【E群】【F群】― 426 ―る視線が他群とは若干異なっている。また、A〜C群と比べて明らかに違うのは、府中・岩滝周辺の海浜風景である。漁村の日常風景を表す地引き網や網干が描かれていない。また、智恩寺境内で砂嘴に面した水際にも柴垣が無い。さらに、〔表4〕では割愛しているが、江尻村の海岸に接岸する二隻の船が、このD群には確認できない。これらのことから総合的に判断し、B群やC群と近い表現も認められるのだが、敢えてA〜C群とは別系統のグループを仮定した。尚、同グループにおいた二例であるが、サントリー本が先行すると思われる。山の描写や人物の表現、金雲の使い方などから、狩野派系画師が想定される。広島某家伝来本は、これに倣った狩野派弟子筋の地方画師(かなり亜流)を考えてみたい。この類型は、一瞥して他と異なり、穏やかな印象の二例で、このうち佐野美術館寄託本は久野幸子氏が論考で紹介されている(注7)。風俗描写が少なく、航行する船の表現も穏やかである。他に比べて、画面上に霞や金雲が多いこともやわらかな印象を助長する。金雲の多用は府中から野田川にかけての景観を省略するためか。景物は随所で簡略化されており、主要なランドマークである籠神社までもが画面上から消えている。また、D群と同様、智恩寺境内には柴垣も見当たらない。ただし、佐野美術館寄託本では、柴垣との関係を想像させるような松が、九世戸に面した境内に並んでいる。さらにE群の二例は、数少ない秋の景観に描かれていることにも注目したい。天橋立は和泉式部や熊野山など桜のイメージが強く(注8)、紅葉を描くことは極めて珍しい。佐野美術館寄託本では第六扇の夕日浦の端に、金雲の間から赤く色づく木の葉が見える。一双形式で他隻を見た場合、厳島図には桜が描かれており、通例とは四季が逆転している。また、砂嘴の形状が、天橋立創造伝説に纏わる「如意」に似た形状に変化して描かれていることも特徴に挙げておく。他のグループと比べて、かなり異なる天橋立図へと展開していった例である。このグループの大きな特徴は二つある。一つは画面左最上部の宮津城を思わせる城壁や建築物の存在である。地理的整合性を排してまで、絵の視点からは見えるはずのない宮

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