鹿島美術研究 年報第31号別冊(2014)
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研 究 者:ヴァンジ彫刻庭園美術館 学芸員  森   啓 輔はじめに「もの派」とは、1968年から1970年前半にかけて、近代的な表象作用の否定によって、木や石、鉄、ガラスなど自然物や工業用材の未加工な使用を特徴にもつ日本での美術の一動向である。代表的な作家としては、もの派の理論的な主導者の役割を果たした李禹煥と、関根伸夫、菅木志雄、吉田克朗、小清水漸、成田克彦、本田真吾ら多摩美術大学出身者や、榎倉康二、高山登ら東京藝術大学出身者、また原口典之ら日本大学芸術学部出身者らがあげられる。当時、日本国内での動向が広く認識されていながら、名称の起源は正確には不明とされる。李や菅らもの派の作家、また峯村敏明など美術批評家らによる言及や、それ以後のもの派をテーマとする数々の展覧会の開催によって、戦後の重要な美術動向の1つとして、現代においても高い注目を集めている。また、そのようなもの派に関連する展覧会は、海外においても近年顕著となり、2011年には李が個展「李禹煥 無限の提示 Lee Ufan: Marking Infinity」をアメリカ合衆国のグッゲンハイム美術館で開催、また2012年にはロサンゼルスのBlum & Poe、ニューヨークのGladstone Galleryにて、もの派をテーマとした展覧会「太陽へのレクイエム:もの派の美術 Requiem for the Sun: The Art of Mono-ha」が開催されている。本研究は、日本でも研究対象としてその意義が高く認識されているもの派の動向について、国内の研究に加えて、アメリカでの展覧会および企画に関連する資料について調査を行い、国外でのもの派の受容の過程を分析しながら、国内と海外での動向を比較することを目的とする。特に海外での調査については、カリフォルニア州にある「ゲッティ・センター The Getty Center」の「ゲッティ・リサーチ・インスティテュートGetty Research Institute」でのもの派に関連する文献資料の収集状況の調査を行う。なお、本研究に先立ち筆者は、2010年に「ものを「跳躍」する─1970年前後の物概念」(注1)で、もの派における物質の概念について考察している。そこでは、W. ベンヤミンが「歴史の概念について(歴史哲学テーゼ)」で提唱した「跳躍」を、もの派の作家の物質に対する考えを導出する有益な概念的方法として捉え、菅や榎倉ら1970年前後の作品が持ちえた「物概念」の抽出を試みた。特に、M. ハイデッガーの「芸術作品の根源」や「技術への問い」、「藝術と空間」などの論考を取り上げ、それ― 444 ―㊵ 「もの派」の歴史的布置に関する考察  ─1968年前後の資料を中心として─

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