鹿島美術研究 年報第31号別冊(2014)
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― 445 ―らの分析を通じて、物質に潜在する「有用性」、「世界の開示」としての大地、空間、環境と作品との関係について分析した。また、もの派に多大なる影響を与えた作家である高松次郎を取り上げた『高松次郎「単体」と「複合体」の間─境界に揺らぐ波』(注2)では、1969年の『美術手帖』12月号に掲載された李の論考「高松次郎─表象作業から出会いの世界へ」を起点として、当時の「つくる」という制作行為とテクノロジーの関係から、高松の物質への主体的介入としての制作手法を、もの派の作家との関連性から分析をした。いずれの論考においても、近代における表象作用の批判、自然物の未加工な使用を特徴とするもの派について、それぞれ当時の物質観、制作行為の主体的介入という視点を、西欧での近代的な歴史観やミニマル・アートといった美術の動向を比較対象としながら、再考することが目的だったといえる。ゲッティ・リサーチ・インスティテュート(GRI)ゲッティ・センターは、石油採掘で巨額の富を築き上げた実業家J.ポール・ゲッティ(1892−1976)によって、アメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルスに建造された複合型施設である(注3)。ミネアポリスに生まれたゲッティは、大学卒業後にオクラホマで油田の合同事業により財をなし、1931年より美術品の収集を開始、1954年に私邸に美術館を開館する。その後、オークションを通じた美術品の継続的な購入によるコレクションの拡大に伴い、1974年にマリブに古代ローマを再現したゲッティ・ヴィッラを開館、また1997年には新たな土地購入により、ロサンゼルス西のサンタモニカ山の一部を切り開き、建築家リチャード・マイヤーの設計による新美術館を建設している。美術館のコレクションは、古代美術、フランスの調度品と装飾美術、ヨーロッパの絵画を中心としながら、その他にも素描、写本、写真、彫刻など計7部門と多岐に渡っている。古代美術の部門では、《ランスダウンのヘーラクレース》や《エルギン・コレー》などギリシャ、ローマ時代の等身大の大理石彫刻や陶器、また絵画ではイタリアのルネッサンスやバロック、オランダの人物画、フランスの印象主義など13世紀から20世紀までのヨーロッパの主要な流派の作品が、広く収集されている。現在、古代ギリシャ・ローマ美術のコレクションはゲッティ・ヴィッラに、またそれ以外は美術館の東西南北のパビリオンに時代ごとに分類され、自然光を用いた広い空間で展示されている。また施設を運営するゲッティ財団は、ゲッティの死後、1982年頃より国際的な意義

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