― 450 ―チュン他は日本人が編集に携わり各章の紹介を担当しているため、「戦後日本の前衛美術」を企画したモンローのもの派の解説が、ミニマル・アートの影響のもとに、ミニマル・アートともの派の異なる点を素材や作品の構造の観点から積極的に導出し、「欧米/日本」という対立軸を鮮明に打ち出しているのに対し(注12)、例えばアンソロジーの3章を紹介している住友文彦の解説では、同時代の日本の美術動向の前後関係を視野に入れながら、見ることへの疑いがもたらした「視覚と身体に関する現象学的な言説の出現」(注13)として、もの派の動向を指摘している。アメリカでの1970年前後の日本の美術動向に関する調査は、「東京 1955−1970」などの日本を中心的なテーマとした展覧会以外でもみられる。ニューヨークのジューイッシュ美術館では、2014年に2期に分けて「Other Primary Structures」という展覧会を開催している。同館では1966年に、原色による立体への彩色と幾何学的な形態を特徴とするミニマル・アートを、戦後美術の主要な動向として捉えた展覧会「Primary Structures」が行われている。約半世紀ぶりに同館で開催される「Other Primary Structures」では、当時の欧米以外の地域でのミニマル・アートと形態的な類似性をもつ作品に焦点が当てられ、アルゼンチンやブラジルなどの南米、クロアチアやポーランドといった東欧諸国、また日本などのアジアの作家が参加している。日本からは、第2期にもの派の作家として関根、菅、李、高松が参加している。また会場では、当時の展示風景が引き伸ばされ、カール・アンドレやアンソニー・カロなどイギリスとアメリカの作家の作品の写真を比較対象としながら作品が展示されており、同会場での「Primary Structures」の展示模型とともに、改めて当時を検証する資料性の高い展覧会となっている。一方で、企画者のジェンス・ホフマンは、現代におけるグローバルな作品調査について言及しており(注14)、「Other」にリテラルな意味でのミニマル・アート以外の作品と、文化的他者の二重の意味をもたせている。もの派は、世界的な1960−70年代への関心の高まりとともに、戦後日本の具体、反芸術以後の美術の一動向として、今後も西欧の美術館やギャラリーが主導となって、研究や資料調査が進んでいくことが予想される。本研究では、GRIの資料収集の調査を中心として、近年のもの派受容の状況をアメリカで開催された展覧会および展覧会カタログ等の文献資料にもとづいて俯瞰した。特にアメリカでは、ミニマル・アートとの形態的な類似において、もの派はアメリカでの動向に対して文化的差異をもつものとして、ミニマル・アートの世界的な広がりを歴史的に補強する役割を担っているといえる。それはまた、アメリカでの調査や受容が自己を映す反省的な鏡として、日本での文脈におけるもの派研究の有益な示唆となることだろう。
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