鹿島美術研究 年報第31号別冊(2014)
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― 464 ―スト表現に関する再解釈を提示するものである。キリストの球体とラツィオ、ウンブリア、シチリア島に散在するローマ型創世記図像を比較検討し、トゥスカーニアのキリストが創造主として描かれたことを明らかにする(注3)。Ⅰ アプシス・コンカ壁画現在は、キリスト、4人の全身像の天使、パウロの頭部、一部の使徒とメダイヨンが剝落し、コンカ部分は漆喰で埋め込まれ、コンカ下部の石材が露出しているが〔図3〕、19世紀前半の画家ヨハン・アントン・ランブーによる水彩画〔図7、8〕、1971年の地震以前に撮影された写真資料から、アプシス・コンカの詳細を知ることができる(注4)。かつて、アプシス・コンカ中央には、長髪で白い衣服を纏うキリストが右手に球体、左手に冊子本を掲げ、赤と青の三角形で表された雲間に立っていた。ランブーの水彩画では有髯の姿であるが、写真資料ではすでに顔の下部が剝落しており、詳細を確認できない。冊子本には、ランブーによると“Ego sum lux mundi vita veritas”と記されるが、写真資料では“[■]VI/TA[■]”のみ読み取ることができる。この銘文は「わたしは世の光であり、真理であり、命である」となり、『ヨハネによる福音書』(8:12、14:6)の組み合わせである(注5)。キリストを囲む全身像の天使4人と銘文のある巻物を持つ半身像の天使4人は、躍動感にあふれた姿で描かれ、キリストを軸にシンメトリーに配される。コンカの高さと天使の身体の大きさが比例しており、コンカの高い位置には、身体の大きな全身像の天使、低い位置には小さな半身像の天使が表される。また、天使の巻物に記された銘文については、ランブーの水彩画、写真資料、イーゼルマイヤー及びヴァルトフォーゲルの記述で銘文の有無や内容が異なっていた(注6)。詳細に検討した結果、向かって左側、キリストの足元で2天使が持つ銘文は“Gloria in excelsis Deo et in terra”および“Viri galilaei quid statis aspicientes in coelum”と解読できた。この銘文は「いと高きところには栄光、神にあれ、地には(平和)」となり、『ルカによる福音書』(2:14)の章句の一部と判明した。後者の銘分は「ガリラヤの人たちなぜ天を見上げて立っているのか」と解読でき、『使徒言行録』(1:11)に典拠を持つ。なお、右側の足元で2天使が持つ銘文は1920年代の壁画修復で加筆されたとみなすことができる〔表〕(注7)。コンカ下部の半円筒状壁面は、水平に三分割され、3つの窓で区切られた上部区画には、トゥニカとトーガを着た12使徒が3人ずつ配されている。中央の窓は14世紀の壁画(2人の寄進者に囲まれた、玉座のペテロ)で塞がれており、その左右にはパウ

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