鹿島美術研究 年報第31号別冊(2014)
475/620

─『マルコによる福音書』16:19― 465 ―ロとペテロを先頭とする使徒たちが動揺した仕草をしながら、天を仰ぎ空を指さす。使徒たちは、三葉の樹木が茂り、小さな花が咲く緑野に立ち、後方にはなだらかな丘陵風景が広がる。下の区画には、中央に置かれた司教座の両脇に3つのメダイヨンが並ぶ。メダイヨンには、ニンブスをともなう若い聖人の胸像が描かれ、彼らの視線は中央へ集まっている。さらに下の区画は、濃紺、くすんだ肌色、灰色で何らかの装飾が施された跡がかろうじて確認できる状態である。Ⅱ 「キリスト昇天」以下では、「昇天」の図像タイプを確認し、サン・ピエトロ聖堂アプシス・コンカとの共通点および相違点について言及する。イエス・キリストの復活から40日後、使徒たちとオリーヴ山にいる時にキリストの昇天は起こった。「昇天」の聖書正典における主な典拠は『使徒言行録』(1:9−11)であるが、新約聖書では他にも「昇天」への言及が認められる(『ルカによる福音書』14:50−51、『マルコによる福音書』16:19、『ヨハネによる福音書』20:17、『ローマの信徒への手紙』10:6)。こう話し終わると、イエスは彼らが見ているうちに天に上げられたが、雲に覆われて彼らの目から見えなくなった。イエスが離れ去っていかれるとき、彼らは天を見つめていた。すると、白い服を着た2人の人がそばに立って、言った。「ガリラヤの人たち、なぜ天を見上げて立っているのか。あなたがたから離れて天に上げられたイエスは、天に行かれるのをあなたがたが見たのと同じ有様で、またおいでになる。」 ─『使徒言行録』1:9−11イエスはそこから彼らをベタニアの辺りまで連れて行き、手を上げて祝福された。そして、祝福しながら彼らを離れ、天に上げられた。彼らはイエスを伏し拝んだ後、大喜びでエルサレムに帰り、絶えず神殿の境内にいて、神をほめたたえていた。 ─『ルカによる福音書』24:50−53主イエスは、弟子たちに話した後、天に上げられ、神の右の座に着かれた。各記述は簡潔であり、どのようにキリストが上昇したかについては明らかにしてい

元のページ  ../index.html#475

このブックを見る