注⑴ C. A. Isermeyer, “Die mittelalterlichen Malereien der Kirche S. Pietro in Tuscania,” in Kunstgeschichtliches Jahrbuch der Bibliotheca Hertziana, 2(1938), pp. 290−310; S. Waldvogel, “The Ascension at San Pietro in Tuscania: An Apse Painting as Reflection of the Reform Movement and Expression of Episcopal Self-Confidence”, in Shaping Sacred Space and Institutional Identity in Romanesque Mural Painting. Essays in Honour of Otto Demus, Th. E. A. Dale e J. Mitchell(eds.), London, 2004, pp. 203−229; E. Tagliaferri, I rapporti tra la pittura laziale romanica e la committenza nell’età della riforma gregoriana: San Pietro a Tuscania ed i cicli pittorici minori dell’alto Lazio, ― 468 ―チェーリには、旧約聖書、聖人伝などを描いた12世紀前半の制作と推定される壁画が聖堂身廊に認められる。「天地創造」場面では、十字ニンブスで無髯の創造主が中央円形枠から祝福を与える。創造主の真下には聖霊の白い鳩が羽ばたいている。円形の左右には、こげ茶の球体すなわち太陽と青みがかった灰色の球体である月が描かれ、その下方には小さなマンドルラが2つ配され、内部にはアダム、エヴァがそれぞれ立っている。画面下部に、深緑の草花が咲く大地があり、その下部には月と同じ色の海に深緑の波線が水平に引かれ、魚、イカ、イルカのような生き物が泳ぐ。トゥスカーニアとの明らかな類似性を示すモティーフとして、太陽と月の表現が指摘できる。トゥスカーニアとチェーリの太陽と月はリボン状の布を丸めてできたような形で描かれ、色もこげ茶から赤茶に白いハイライトが入る点も共通する。太陽、月、星などのモティーフを含むローマ型創世記図像は、ローマのサン・パオロ・フオリ・レ・ムーラ聖堂身廊壁面を装飾していた5世紀の創世記場面に遡るとみなされ、とくに11世紀から13世紀にかけて数多くの壁画、モザイク、写本挿絵が制作された。よって、ローマ周辺、ウンブリア、シチリア島において普及した創世記図像の「天地創造」場面は、よく知られており、創世記というコンテクストに置かれずとも、「天地創造」の表象となることが理解されたと考えられる。おわりにサン・ピエトロ聖堂のアプシス・コンカは、モンテカッシーノ修道院周辺で描かれた第1の型の「昇天」図像やオットー朝写本挿絵の影響を受けたとみなされてきたが、ローマを中心に普及した創世記図像のうち「天地創造」との密接な関係があることも明らかになった。サン・ピエトロ聖堂のキリストは、「天地創造」を示唆する球体を右手で持ち上げ、「昇天」=「再臨」というたんなる史伝図像で過去や未来の瞬間を示すのではなく、創造主として天使たちに礼讃されるのである。
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