鹿島美術研究 年報第31号別冊(2014)
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― 505 ―名でステートメントを発表したニューマン、作品のスケールと色相においてロスコに影響を与えたスティル、この両者とロスコの作品の代表的様式との比較検証を行い、ロスコ作品における構図の在り方について考察する。また、ロスコ様式にみられた構図と支持体の一体化、地と図の関係、ロスコ晩年の「ハード・エッジ」につながる様式が、後に続く「カラー・フィールド・ペインティング」と呼ばれる画家たちに、どのような影響を与え、1960年代の絵画の潮流にいかなる作用を及ぼしたのかを解き明かしたい。1.三者にみるカラー・フィールドロスコ、ニューマン、スティルの三作家は、ポロックをはじめとする抽象表現主義と呼ばれる作家たち同様に、神話や呪術、アメリカの土着文化にも着目しながら、原初的で誰もがもつ普遍的な感情を絵画によってもたらすことを試みた。1940年代の初期においては、その着想源からも三名の作家の作品には類似性を見ることができ、40年代中盤には、互いに創作において刺激を与え合っていた。40年代後半になると三者の作風が代表的様式へと変化していき、各々の独自性を獲得している。この三作家の作品が、巨大な色面によって観者の感情に直接訴えかけ、一つの体験をもたらすという点では共通項を見出すことができる。55年にグリーンバーグが三作家を評価する「アメリカ型絵画」を執筆した時期、既に三人は独自の様式を確立し、抽象表現主義の代表的画家となっていたが、この批評によって、三者の抽象表現主義の中での位置付けが明確になり、論理的に分類されたといえるだろう。ここでは、40年代後半に形成された三者の代表的様式を比較しながら、ロスコ絵画における「フィールド」について検証する。当時のニューマンの作品は〔図2〕、赤や青などの原色を用いて、筆触が残らない、表面をコーティングしたかのような色面に、ジップと呼ばれる細い帯が画面にいくつか走り、その部分においては、手技の跡を感じさせる描き方となっている。ニューマンの絵画は、厳格な構図と、テクスチャーを感じさせない平面性、光を反射するかのような硬質な表面性が特質となっている。また、スティルの作品については〔図3〕、既に1943年頃から兆しが見られたが、厚塗りの荒々しいタッチで黒やこげ茶などの暗い色調の絵の具が一面に塗られ、そこに、赤や黄、紫などの強い色彩が、まるで稲妻や切り立った崖を思わせる線描やぎざぎざの縁のある色帯として配され、その地と図は厚塗りのマチエールと相まって峰々の岩肌を想起させる。構図において、ニューマンの作品では、当初はジップが画面の上下の縁に横に配されることもあったが、やが

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