鹿島美術研究 年報第31号別冊(2014)
521/620

9〕や《無題》〔図10〕では、図となる矩形の部分よりも地の部分の色をしっかりと塗ることによって、色彩と筆触による強弱をつけ、その存在感を高めようとしているように思われる。そう考えれば、ロスコ様式の作品は、これまで考えられてきた大気を思わす地にいくつかの矩形が層状に水平に浮かぶ、地と図の構成ではなく、むしろ縦の垂直性の動きを表すために両端に縦の色の帯を残すという意志のもと、この地と図の構図が生まれたと考えられるのではないだろうか。つまり、地と図の構図が発生したのは、水平の矩形の連なりのみにさせるのではなく、縦に色の帯を配置することで、画面に垂直性を与えようとしたからだと考えられる。― 511 ―1950年には、ニューマン、スティルと共に、のちに「カラー・フィールド」と称されることになる表現様式を確立したロスコだか、この色遣いと矩形の反復による画面構成は、抽象表現主義の第二世代となる「カラー・フィールド・ペインティング」の画家たちにどのような影響を及ぼしたのだろうか。本章では、ロスコの表現様式と、また、カンヴァスのフォーマットについても変化がみられる(注14)。ロスコ様式以前は、横長と縦長のカンヴァスの使用枚数はほぼ同程度であったが、ロスコ様式の時期になると縦長のものが多くなる。ロスコ様式では画面を水平の層が占めることになったため、カンヴァスを縦長にすることで構築性を保とうとしていたことが考察できる。その一方で、極端に横長のカンヴァスを使用する〔図11〕など、画面の造形性を効果的に生み出そうと様々な実験を行うロスコの姿が認められる。この画面構成における縦と横の構築性については、ニューマンの《崇高にして英雄なる人》のように、垂直のジップを複数配した様式では、横長のカンヴァスを用いることで水平性のバランスを保ち、画面に一つのリズムを生み出している。スティルの場合は、縦のストロークをびっしりと横に連らならせることで垂直と水平の動きを画面内に配している。彼らは各々の方法で、色彩による表現に重点を置きながらも、常に水平性と垂直性という画面の構築性を追究し、作品にスケール感を持たせることでフィールドを生み出そうとした。ロスコの絵画は、一見すると、薄塗で、輪郭を暈した曖昧な形態であるにもかかわらず、地と図の色の対比によって生まれる水平性と垂直性による構築的な画面構成、縦長のカンヴァス、前章で記したカンヴァス側面にまで至る着色などによって、ニューマンとスティルの作品に見られる厳格な構図と原色に近い色による厚塗りの絵画と同等の作品的強度を保つことに成功しているといえる。3.カラー・フィールド・ペインティングとロスコ

元のページ  ../index.html#521

このブックを見る