鹿島美術研究 年報第31号別冊(2014)
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― 515 ―ーマリスティックな意識を持っていたという共通性が見出せるのである。この絵画のフォーマリスティックな問題について、60年代に入ると、ニューマンは色彩と構図の還元化を図ることで色面の純粋性を高めることを試み、スティルは、濃い色と厚塗りによる密度の高い画面から、透明感のあるパステル調の色彩と広い余白を使った開放的な画面へと様式を展開させていく。また、それぞれの絵画表現の追究と並行して、彫刻も積極的に制作することで、触知性と量塊性、造形性の問題についてアプローチを行ったが、ロスコはあくまで平面による矩形の形をした絵画での発表にこだわり続けた。そのなかで生み出されたのが、触知的筆触、矩形の反復、地と図の関係、側面の着色、さらには四方に白枠を施すことであった。おわりにニューマン、スティル、ロスコの作品が、色面の表現によって観者の感情に直接訴えかけ、一つの体験をもたらすという点では共通項を見出すことができる。ニューマンとロスコは、スティルの作品に影響を受け、ニューマンはジップを生み出し、ロスコは色相による構成とスケールの重要性を知った。その後、三人はそれぞれの代表的様式を確立し、抽象的な色面のみによって、崇高性や悲劇性、自己との対峙といった内面的揺さぶりをかける絵画を創出した。ニューマンとスティルが強い色彩をしっかりとした筆触で塗り、隣接する領域の色を劇的に対比させたのに対して、ロスコの色彩と筆触は、柔らかな色彩を薄く重ね筆触を残したもので、地と図の境界も曖昧である。しかし、色がただ拡散して観る者を包み込むだけではなく、地と図の微妙な明度差と光沢の加減、水平性と垂直性による構築的構図、さらにカンヴァス側面にまで施された着色によって、秩序ある構造的画面とスケールを備えている。その色彩と構図の関係によって、ロスコの絵画は、ニューマンとスティルの作品が、強い色面と垂直性の構図によって、観る者を圧倒するかのような迫力で迫ってきたのに対して、観る者の前に立ちはだかるというよりは、親密な「フィールド」を生み出しているといえる。むろん、ロスコの薄塗と精妙なタッチで生み出される、光と大気をまとったかのような微妙な色調の拡がりによる深みのある色面は、抽象表現主義の系譜である「カラー・フィールド・ペインティング」の画家たちに大きな影響を与え、ルイスやノーランドは、薄塗りの絵具を重ね、滲ませ、より拡がりのあるフィールドとしての絵画を描こうとした。また、色彩と形態の一体化、地と図の関係、正面性、形態の反復という構図においても、ロスコの絵画は、彼らの先駆をなしている。これらの要素は、ス

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