研 究 者:広島市立大学 国際学部 准教授 城 市 真理子はじめに相国寺の画僧・周文は五山文化の中で禅僧たちに称揚される漢画の主流であったにもかかわらず、その作品が確定できないことは室町水墨画の研究上の大きな課題であった(注1)。そのため、史料や作品が確認できる雪舟をはじめ、宗湛、宗継、岳翁、蛇足など周文の次世代について研究されてきたが、就中、岳翁は周文の弟子で画賛のある作品が多いことなど、周文派の研究上、特に重要である(注2)。また、画賛研究の成果によって詩画軸には機能・用途があることが知られているが、近年では、さらに研究が進んできており、特に岳翁に関連して禅僧社会に組み込まれた詩画軸制作のシステムにも考察が及んでいる(注3)。また、画風から言っても岳翁は周文派として雪舟よりも主流であり、周文や周文派を研究する上で基準とできる画家である。本稿では、岳翁の作品と画賛を手がかりに周文とその次世代の周文派による山水図、特に山水図屏風の図様と主題に焦点を当てた。山水図屏風の場合、大画面構成の問題は論じられているが、瀟湘八景図を除けば、詩画軸ほど図様の意味については注目されてこなかった(注4)。臥游や胸中の邱嶽として文人趣味の主題とされる山水図だが、伝周文筆とされる室町時代の山水図屏風には当時の禅林社会で共有された詩文のモティーフを複層的に投影した図様が見いだせる。そのような詩文に由来する図様・主題と屏風画の機能との関係について考察を試みた。1.山水図の画賛と図様山水図は「臥游」や「胸中の邱嶽」という言葉で語られるように、中国的な文人趣味の感興を喚起するものであり、漢詩文の世界と強く結びついていた。たとえば、瀟湘八景図と五山文学の密接な関係はよく知られているが、八場面の詩のモティーフと絵画の図様はほぼ定まっている(注5)。また、大西廣氏や高橋範子氏が詩画軸の名品、伝周文筆「江山夕陽図」や松谿筆「湖山小景図」〔図1〕、文清筆「山水図」(正木美術館蔵)の画賛から西湖イメージを考察したように、西湖の実際の景観を写すのではなく文学的なイメージの「西湖図」ともいうべき山水図があったことが想定されている(注6)。それらの画賛から読み取れるのは、洞庭湖のほとり「瀟湘」や文人趣味の聖地「西湖」・「山陰」のごとき、彼方の理想の地における隠逸の夢であり、実― 521 ―㊼ 周文派の研究 ─岳翁と五山文学を手がかりに─
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