鹿島美術研究 年報第31号別冊(2014)
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1:日本国内での研究状況2:パリ・シンポジウムの概要○プログラム初日 11月19日基調講演 Adrien Goetz(パリ・ソルボンヌ大学)発表することとなった。近年、「絵はがき」という媒体への関心が、おもに文化研究や比較文化の研究者のあいだに高まってきている。そもそも「葉書、ポストカード」は19世紀後半、郵便制度の導入により国際的に普及した新しいメディアで、19世紀末からイラストレーションや写真などのイメージの搭載が進んだ。日本国内に限っても、美術館ではすでに1992年に「絵はがきの愉しみ展:フィリップ・バロス・コレクション 忘れられていた小さな絵」展(そごう美術館)や、アール・ヌーヴォー、大正イマジュリー関連の展覧会が行われてきた。2000年紀を迎えて以降、メディアや地域研究の分野から、生田誠『日本の美術絵はがき 1900-1935』(淡交社、2006)、橋爪紳也『絵はがき100年:近代日本のビジュアル・メディア』(朝日選書、2006)、貴志俊彦『満洲国のビジュアル・メディア:ポスター・絵はがき・切手』(吉川弘文館、2010)などが刊行されている。京都の国際日本文化研究センターでも、満洲研究から派生した小研究会として、研究員・朴美貞氏を中心に絵はがき研究会が2011年に結成され、おもに満洲や朝鮮半島などの名所旧跡を対象とした絵はがきの収集とデータベース化が進行している。2012年にはシンポジウム「近代アジアをめぐる絵ハガキメディア:帝国・表象・ネットワーク」も行われた。また、2013年春には明治以来、美術品・文化財の絵はがき等を制作してきた美術印刷会社「便利堂」が展覧会と出版を行い、その歴史化を試みるなど、従来の好事家の収集という次元を超えた、学際的な学術研究の機運が高まってきている。しかしながら、美術史領域における総合的な研究はまだ、とくに日本に限っては顕著でないように思われる。美術家と絵はがきの接点を考える場合、単にイメージの趣味的な収集に限らず、制作のための参考資料(美術館の名画絵はがき、名所旧跡)としてや、自作の絵はがき化(手製、印刷物)などの多層性が考えられる。「郵送」という特有の「機能」により、実際に使用された絵はがきはイメージと書面を合わせて、旅の記憶媒体としても検討しうるものであろう。― 598 ―

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