― 70 ―いう構図が共通している。其一ほど隙間なくびっしりというわけではないが、花の房が長めで小さな花が多くついている点や、画面上部から垂れる花は房の途中から描かれる点でも非常に似ている。また、葉の中央に金泥で一本引かれた線のみで表現される葉脈と、片側にしか葉を描かない小枝〔図4〕といったものは、応挙などの作品には見られず、琳派の画家の作品によく見られるものである。構図や特徴において、琳派の系譜の中で孤邨が描いていることは間違いない。しかし、孤邨独自の描写もある。まずは花の房のうねりと動きである。孤邨と構図が似ていた其一の作品では、数房の花の根元や先をゆるく曲げているだけだが、孤邨は殆どの花先を曲げていて、左端の垂直におりてくる長い花でさえも、花先は緩やかなS字を描く〔図5〕。それぞれの花の房の形状が微妙に異なるカーブを持ち、実物以上に自然の生々しさを感じさせるのである。さらには屏風中央、第3、4扇の花は、まるで風に吹かれた一瞬を切り取ったかのように花先が左へと流れている。この一瞬の風と動きを感じさせる描写は、抱一の「夏秋草図屏風」(東京国立博物館蔵)を思い起こさせるものであり、抱一による装飾性に写実的な視点を加えた試みを、この「藤図屏風」において孤邨は花のあり方において表現し、確実に受け継いでいたことを示している。次に花の形体である。先述したように他の作家に比べて多い花数は、其一に通じるものがあるが、其一のびっしりと小さい花で埋め尽くされた花房とは異なり、孤邨の花房は、花と花の隙間から曲がった長めの小花柄(小花梗)が見えている。たっぷりとした胡粉で描かれた花弁は肉厚さを感じさせ、さらに、一つ一つの花がやや大きく、向きや開き具合を少しずつ変えているため、房全体に量感も感じられる。また、花の中央には黄色い雄蕊の葯のようなものが描かれる〔図4〕。これは、孤邨の「四季流水図屏風」(細見美術館蔵)や「花鳥図」(個人蔵)においてもやはり確認できる特徴である。藤の花は蝶形花と呼ばれ、竜骨弁に包まれるように雄蕊、雌蕊がある構造になっている〔図6〕。虫がとまると花弁が下がって雄蕊、雌蕊が露出するのだが、なかには雄蕊が飛び出して見える花もある。孤邨はこれを意識したとも思えるが描かれる位置があまりにも花の中心に近いため、写実的に描いたとするには疑問が残る。また、花には上方に大きく立つ花弁、旗弁があり、この付け根には蜜標と呼ばれる黄色い筋がある〔図6〕。虫に蜜の在り処を示す模様であるが、孤邨の花にはこの蜜標が無く、旗弁の形も2枚の花弁になっていて実際のものとは異なっている。上記の黄色い葯の表現はこの蜜標を勘違いした可能性もあるかもしれない。しかし、いずれにしても、花弁にグラデーションをつけ、細かな色の違いを表現し、
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