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― 93 ―異色の創造性によって「内地」の美術家にも影響を与えた土方久功や杉浦佐助などの存在は、「大東亜共栄圏」という地理的な広がりが、表現の広がりをもこの時代にもたらしたことを思い知らせてくれるのである。4.おわりに1940年代の連続性を明らかにすることは、日本の近代と現代を接続し、新たに近現代美術史として語り直すために必要な作業である。戦前と戦後の断絶を前提とする歴史観は、しばしば戦争責任などの負の遺産を忘却に追い込んでしまう。戦争を生き延びて戦後も発表を続けた美術家たちが、何を乗り越え、何を避けようとしたのかを意識しなければ、彼らの芸術的な達成を見誤ってしまいかねない。このような時間軸での連続性を垂直の方向とするならば、水平の方向、すなわち地理的な連続性もまた、この時代に特有の状況であったことは既に述べたとおりである。アジアの近隣諸国との深い関わりは、日本という国民国家が決して一枚岩ではなく、領土的にも民族的にもゆらぐ境界線上に存立していたことを再認識させてくれる(注25)。また、従来の美術史が、支配する側の視線により一方的に語られてきたことを認識し、複雑に絡まりあった状況を丁寧に解きほぐしていくことも重要である。例えば戦争という現実を、男性とは異なる角度から見つめてきた女性美術家の存在はその一例である。このような複数の異なる視線を盛り込み、彼ら/彼女らの40年代の生き方に注目することで、常に国民国家との関係性の中で語られてきた40年代を再検討し、個々の作家の生に基づいた、より豊かな物語として語り直すことが可能となのではあるまいか。本研究はそのための第一歩にすぎない。残念ながら今回は、作家の生を取り巻くより大きな構造である、展覧会システムやマスメディアなどの連続性については論じることが出来なかった。また、本研究では主に絵画と彫刻のみを取り上げたが、この時代の日本美術の総合的研究ということであれば、版画、写真、工芸などにも広げて考察する必要があるだろう。さらに本研究では、主に作家の動向を軸に進めたために、作品が当時の観客にどう受け止められていたかという受容の問題については踏み込めなかった(注26)。こうした角度からの分析については、引き続き今後の課題としたい。注⑴下記を参照。森武麿「戦前と戦後の断絶と連続─日本近現代史研究の課題─」一橋大学一橋学会(編集)『一橋論叢』127巻6号、日本評論社、2002年、1-16頁。

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