― 99 ―⑩竹内栖鳳晩年期の水墨風景画に対する予備的考察─資料調査に基づく検討─研 究 者:京都市立芸術大学 美術学部 教務補佐 藤 木 晶 子はじめに─研究目的と調査方法竹内栖鳳は京都画壇において円山四条派以来の「写生」を近代化した画家として評価される。先行研究では、明治後期の渡欧後、日本画の「写生」に西洋の写実主義を導入した時期の活躍が度々注目される。しかし、栖鳳は、大正末期から昭和初期にかけて、現実を克明に再現する画風とは異なる表現を試みている。晩年、継続的に取り組まれた水墨の風景画の連作である〔図1〕。そこには、画面中央に墨を大胆に流し込む墨跡の表現が共通して看取される。中国唐時代にその発生を遡る溌墨技法である。この種の表現は「写生」の近代化を促進する栖鳳の絵画創作の方向に逆行するように見受けられる。筆者はこの点に着目し、竹内栖鳳晩年の水墨風景画における新たな表現展開を探究する。その上で、彼の画業をあらためて包括的に捉え直すことを本研究の主眼とする。上述した研究課題に取り組むため、三つの研究項目を掲げて各調査研究を遂行した。それでは、その研究項目と調査方法を対応させて述べたい。第一に、作品研究として、水墨風景画群の描写変遷を分析し、主要作が発表された淡交会の考察を行う。石橋美術館、桑山美術館、足立美術館において水墨風景画の閲覧調査を行い、また、淡交会に関する文献資料の収集を行った。第二に、制作背景の研究として、水墨風景画の舞台となった関東地方の水郷潮来における写生取材について探究し、潮来取材の絵画と同地に関連の深い中国取材の絵画に水墨画制作の契機を求める。調査方法として、京都市美術館所蔵の潮来を取材した竹内栖鳳の写生帖の閲覧調査を行い、他方、潮来と中国を主題とする彼の作品の図版収集に努めた。第三に、画壇動向に関する研究として、一連の水墨風景画に使用された栖鳳紙の実態を明らかにし、紙本と水墨画を再評価する当時の日本画壇の様相を考察する。この調査では、高知県立紙産業技術センターに依頼し栖鳳紙等の試験分析を行い、また同時代の水墨画に関する図版及び文献の収集を進めた。このように各方面から調査を遂行した。本論文では、紙幅の都合上詳細な調査内容は割愛し、三つの研究項目に従って調査研究の成果を要約的に報告したい。
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